第20話DJの祭典への招待
お台場から首都高速湾岸線に乗って、およそ30分。
高城のアストンマーチンは、東関東自動車道の『湾岸習志野インターチェンジ』で高速をおりた。
東京湾岸道路をしばらく走って、県道15号線に入ると、メッセ大橋を渡って『幕張海浜公園入口』にたどり着いた。
フェスティバル会場の千葉市美浜(みはま)区の幕張海浜公園は、この土曜日から月曜日までの三日間、67万9000平方メートルの広大な公園全体が《アルティマパーク》となる。
世界最大のEDMフェスティバル《アルティメット・デジタル・チャレンジ=アルティマ》は、毎日五万人以上のEDMファンが全国から押し寄せるパーティーピープル、すなわちパリピの祭典である。
《アルティマ》には、世界中の超一流DJたちが集結する。このフェスティバルに出演することは、アーティストとしてのステータスになるため、みずからスケジュールを空けて出演するDJも少なくない。
《アルティマジャパン》のオープンは午前11時。参加チケットは三種類ある。
《アルティマパーク》内を、午後九時のクローズまで立ち見で自由に行き来出来る『AG』と、特設指定席とパークの両方を楽しめる『VIP』、さらにモデルや芸能人、関係者などの招待客のための『スーパーVIP』がある。『VIP』席では、お酒と喫煙、飲食が自由で、専用のトイレも設置されている。
『スーパーVIP』席は《アルティマジャパン》の華(はな)といえる施設で、モデルや、出演するスターDJ、gogoダンサー、さらに有名な芸能人らが、ボックス席でシャンパンを開けてパーティーを楽しむのだ。
メインステージの左側には『VIP』席と『スーパーVIP』席のために巨大なスタンドが設けてある。メインステージは《アルティマジャパン》の中心となる場所で、出演する有名DJのほとんどが、ここで数万人の観客を前にプレイすることになる。
《アルティマパーク》には、メインステージのほかにも三つの小規模なステージがあり、こちらに出演するDJのファンは、メインステージと行ったり来たりしながら楽しむのだ。
パークのあちこちには飲料メーカーのブースがあって、真夏の炎天下で汗を流す来場者に、お酒やソフトドリンクなどの飲み物を提供している。同様にフードコートも設置されており、軽食が楽しめる。
メインステージ前が盛り上がるのは、有名なDJが登場する午後三時以降である。出演するアーティストの中でも『ヘッドライナー』と呼ばれるスターDJたちは、夜にむかって、自分たちの技を競うようにメインステージでパフォーマンスを披露する。
今日、高城ダニエルとことみたちが参加する日曜日は、三日間でもっとも人気のあるアーティストが出演する日である。
快晴のこの日、午前11時の開場と同時に、海浜公園には数万人の観客が押しよせていた。
パーク内には、ド派手な格好のEDMファンがあふれていた。コスプレやタトゥーシール、タオル、フラッグ、光るブレスレットなどの、アルティマグッズで身をかため、無数のパリピ軍団がノリノリで騒いでいる。夜の盛り上がりを前に、あちこちで記念撮影を行なっているグループも多い。
海浜公園入口を通り抜けた高城は、専用ゲートで『スーパーVIP』のパスポートを提示した。高城はあらかじめ四人分のチケットを用意しておいた。
スタッフは車の窓越しに、高城と他の三人の手首に入場確認用のリストバンドを巻きつけた。エントリーが済むと、高城はアストンマーチンを進めて、VIPステージ裏のパーキングエリアに止めた。
「ダニエルさん。あたし達の料金はおいくらなんですか?」とことみは高城にたずねた。
「ああ、今日は僕の招待だから、それは気にしなくていいよ」と高城はさらりと言った。
「え、いいんですか?何かめっちゃ高そうですよ」と晴夫も言った。「今日初めてなのにそれは悪いですよ」
「このスタンドに席があるんですよね?」とことみは言った。「専用席なら値段も高いんじゃないですか?さっきちょっと会場を見たけれど、ほとんどの人は立ち見みたいですけど」
「まあ、10万円くらいかな。芸能人とか招待客用だから、ほとんどは企業さんやプロダクションが払ってくれるんだよ」と、高城はまたもやさらりと言ってのけた。
「どひゃあ〜っ、たまげた!マジですか?」と晴夫がすっとんきょうな声を上げて驚いた。「ことみ、お前こんな高貴な方とどこで知り合ったんだよ?すげ〜な。俺たちVIPじゃんか、最高〜‥‥あ、すみませんダニエルさん‥‥つい浮かれちまって」
「いいんだよ杉本くん。その通り、君たちはVIPだよ」と高城は後部座席をふり返って、笑顔で親指を立てた。
「あたりまえだ。われらはもともと招待されて当然ではないか」とジェニファーが素知らぬ顔で言ってのけた。超お嬢様の "クリオネ "ことジェニファーは、ふだんからどこへ行くにも特別扱いなので、10万円くらいのVIP待遇にはピクリともしない。
「お前、またそんなえらそうなこと言って。ダニエルさんにお礼くらい言えないのかよ、まったく」と晴夫は言って、ジェニファーの頭をこついた。
「あはは、ジェニファーちゃんてユニークで面白いね。ほんと、僕なんかよりずっとお金持ちのお嬢様みたいで貫禄があるよ」と高城が感心して言う。「でも、みんな本当に気にしないで。今日はリラックスして楽しんでよ」と三人にむかって言った。
「本当にありがとうございます」とことみは言った。
「では、お言葉に甘えてお世話になります」晴夫はキャップのつばを手でつかんで、頭を下げた。
「うむ、苦しゅうない」とジェニファーが言う。
「さあ、行こうか」と言って、高城はことみたちを車の外に誘った。
四人は駐車場に降り立った。アスファルトに夕方の斜めの日差しが照り返して、あっという間に汗が噴き出してきた。
高城に連れられて、ことみたち三人は、スタンド下の専用ゲートに向かった。
ゲート前では、黒人のセキュリティスタッフが二人、持ち物チェックを行なっていた。ことみたちは、背中に背負っていたバックパックの中身を調べられた。すると、黒人は晴夫が持参していたペットボトルのお茶を取り上げて、テーブルに乗せた。
「あっ、それは俺の‥‥」と言いかけると、黒人が「ノーノー、飲み物の持ち込みはダメねー」と言った。
「ごめんね杉本くん。《アルティマジャパン》では、ドリンクは場内で売っているものしか飲めないんだよ」と高城が事情を説明した。
「あっ、そうなんですね」と晴夫は答えた。「何かきびしいんだなあ〜。ま、いいや」
「中に入ったら、飲み物は僕が用意するから心配しないで」と高城が言う。
持ち物チェックを済ませると、高城がパスポートをスタッフに提示して、四人はゲートの中に入っていった。
ゲートを通り抜けると、そこは傾斜した広い観客席だった。前方に、巨大なメインステージの建築物がそびえ立っているのが見える。目の前に広がるVIPスタンドには、百席以上の丸いテーブルと椅子がならべてある。そこでは千人以上ものクラブ好きなパリピの男女が、飲んで浮かれ騒いでいた。目の前のメインステージから、大音響のサウンドが鳴り響いている。
高城は客席の間の階段をどんどん降りていき、ことみたち三人はその後をついていった。やがてスタンドの下方、いちばん前に、スーパーVIP席が見えてきた。
VIP席よりはるかに豪華なしつらえで、10人くらいが座れるU字型のソファーが並んでいる。
どの席でも、派手でお洒落な服装をした男性客とモデルと思われる美女たちが、シャンパンをあおって盛り上がっていた。
「ダニエルさん。あれが私たちの席なんですか?」とことみはおそるおそるたずねた。
「ああ、そうだよ。僕の友だちも来てるから、これから紹介するよ」と高城は言って、三人をきらびやかなスーパーVIP席へと案内した。
VIP席とスーパーVIP席の間には柵が設けてあって、関係者以外が入り込めないようになっている。高城がパスポートを見せると、スタッフが扉を開けて四人を通してくれた。
「健二!」と呼びかける声がきこえた。「遅いじゃねえか」
「よお。お待たせ、セイヤ」と、高城は声の主に向かって手を上げた。
目の前のソファー席には、金髪にあご髭を生やした、派手なルックスの男が座って、目の前に並んでいるシャンパンを飲んでいた。その隣には、小麦色の肌を惜しみなく露出した、可愛らしいモデルの女性が座っている。
「さあ、みんな。どうぞ座って」高城はことみたちをソファーに導いた。
「すみません。おじゃまします」と言って、ことみは高城の隣に腰かけた。
「おじゃましま〜す」晴夫もことみの隣に座る。
「世話になるぞ」ジェニファーはさらにその隣、スーパーVIP席の最前列に腰を下ろした。
「セイヤ、ちなみん。紹介するよ」高城は友達の二人に向かって言うと、ことみたちの方に手をふった。「こちらの女の子が田中ことみさん。それと、お友達の杉本くんと、ジェニファーちゃんだ」
セイヤこと加賀美誠は、ことみの顔を見ると、おやっという顔つきになった。
「おい健二。この子って、例の‥‥」セイヤは高城の耳元でささやいた「思ってたより可愛いじゃんか。それに、何かおしとやかで抱きしめたくなるような‥‥」
「おい、初対面でチャラいこと言うな」と高城がセイヤの頭をたたいた。「お前の知り合いみたいなギャルとは違うんだからな」
「あら健二くん。ギャルで悪かったわね」と、ちなみんこと橘ちなみが言う。
「あ、いやいや。ちなみんはそんなんじゃないよ」と言って、高城はちなみの機嫌をとった。「それより自己紹介しようよ。ことみさんたちはこういうところ初めてなんで、リラックスさせてあげてくれよ」
「よしきた!」とセイヤが言った「よお君たち。俺は加賀美誠、セイヤって呼んでくれ。ようこそパリピの世界へ。いえ〜い!」あくまでノリが軽い。
「あたしは橘ちなみ。ちなみんって呼んでね」モデルのちなみは、キラキラした眼を輝かせて、ことみたちに愛想を振りまいた。
セイヤとちなみの外見に、ことみと晴夫は思わず唸ってしまった。高そうなブランド服に身をつつんで、アクセサリーが輝いている。押し出しの強いセイヤの派手な見た目。とびきり可愛くて綺麗な、ちなみのルックス。
普段着のままでやって来た晴夫は、自分が場違いなところに来てしまったと気が引けていた。それにしても、このちなみんさん、とんでもなく可愛いなあ〜、と度肝を抜かれてもいた。
一方、ジェニファーは、全く動じることなく堂々としていた。セイヤとちなみに向かって片手を上げると、まるで召使いをあしらうかのようにうなずいた。「そなたらはダニエル殿の学友か?」と言って、メインステージと会場を見渡した。「なかなか興味深いところであるな。ちと音がうるさいが、まあ我慢してやらぬでもない」
セイヤは、ジェニファーの高飛車な様子にあっけにとられている。ちなみも眼をむいて、ジェニファーを見つめていた。
「あっ、すみません。こいつ変わり者なもんで、気にしないで下さい」と晴夫は二人に向かって頭を下げた。
「あはは。ジェニファーちゃんは超お金持ちのお嬢さんなんだよ」と高城が言った。「でも、気立てはいいんだよ。仲良くしてあげて」高城はことみの友達ということもあって、ジェニファーの奇抜な振る舞いにすでに慣れていた。
「それにしても、このイベント半端ないですね〜」と晴夫が言って、会場を埋め尽くす数万人の観衆に仰天していた。「ロックフェスなんか足元にも及ばないスケールじゃないですか。こんなイベントがあるなんてびっくりですよ」
「まあ、世界一のダンスミュージックのフェスティバルだからね」と高城が言った。「どう、面白そうだろ」
「はい。僕の実家は楽器店なんで、いろんな音楽関係の人と知り合いなんですけど、DJ関連の音楽には縁がなくって」と晴夫は答えた。
「まあ、とにかく今日は目一杯楽しんでよ」と高城は言った。「さあ、みんなで乾杯しよう。セイヤ、シャンパン用意してくれ」
「はいよ。まかしとき!」と言うと、セイヤはテーブルに並んだいくつものグラスから四本を手に取って、《Moët(モエ)》のボトルからシャンパンを並々と注いだ。「はい、どうぞ!」と言って、ことみたちに配った。
すると、その時ジェニファーが顔つきを変えた。「おお、スパークリングではないか。」と言って、グラスにぐいっと顔を寄せた。「だが、シャンパンにしては安物を飲んでおるな。あとでわれがもっと高級なものを出してしんぜよう」
「おい、クリオネ。おまえ未成年なんだから、酒飲んだらダメだろうが」と、晴夫がジェニファーに向かって言った。
それを聞いたジェニファーが、あきれた顔をして晴夫に突っかかった。「そなた寝ぼけておるのか?われは二十歳であるぞ。何を言っておるのだ」
「えっ?」と晴夫は狐につままれたような顔をした。「だっておまえ、純粋女学院の高校生だろ?あの助さん角さんと三人組で‥‥」
「勘違いもはなはだしい。われは女子大生である」とジェニファーが言う。「あの者どもは、われの付きの者だ。勝手に決めつけるな」
「え〜、何だよ。いつも制服着てるから、てっきり女子高生かと思ったじゃんか。まぎらわしいなあ」と晴夫は情けなさそうな声で言った。
「え、ジェニファーちゃんて二十歳なの?」とちなみが声を上げた。「肌が赤ちゃんみたいに透き通ってて、お人形さんっぽいから、ぜったい十代だと思った」興味津々といった様子である。「ところで、ことみちゃんはいくつなの?」と言って、ことみの方に顔を向けた。
「あ、26歳です」とことみは恥ずかしそうに答えた。
「え、あたしも26歳だよ!めっちゃ童顔だね。年下かと思った」
げっ、この人同い年なの‥と、ことみは胸の内でつぶやいた。この差は何?完璧に完成された見た目。まわりを圧倒する美しさ。あ〜、ダメだわ。あたし、ますますヘコむ。
「だろ、ちなみん」と高城が言った。「ことみさんは清らかで汚れがないんだよ。僕が今まで知り合った中では、いちばん可愛い人だね」
「何それ〜。健二くん、あたしには一回もそんなこと言ってくれないのに〜」
「おい、それより早く乾杯しようぜ」とセイヤが言って、全員をうながした。
「そうそう。それじゃあ、乾杯〜」と高城が言ってグラスを上げた。
「乾杯〜!!」
「いただきま〜す!!」
午後5時15分。
メインステージでは、本日のヘッドライナーのひとりである、アメリカ人のDJ『Mickey Wright(ミッキーライト)』の演奏が始まった。DJブースの後方にそびえ立つカラフルな建築物、《アルティマ》タワーの巨大なビジョンが、イエローとホワイトに明滅する。
それと同時に、前方のステージにビキニ姿の美女たちが現れた。gogoダンサー軍団の『Galaxy Angels(ギャラクシーエンジェルズ)』の登場である。
彼女たちはスパンコールで飾った光り輝くビキニと、銀色の髪飾り、膝上丈の黒いブーツ姿で、身体をくねらせてセクシーなダンスを披露していく。
「おっ、出たよ『ギャラクシーエンジェルズ』のお出ましだぜ!」とセイヤが声を上げた。「MAIちゃん、MOEちゃん、MAYUKAちゃん、シャロンちゃん!!」と歓声を張り上げて立ち上がった。「相変わらずセクシーだね〜。愛してるよ!!」
「セイヤくん、ほんっとギャラクシー好きだよね」とちなみがあきれた声で言った。「可愛い子なら誰でもいいんでしょ?この女好き!」
「おいおい。ギャラクシーエンジェルズは別格だよ。そこいらのギャルと一緒にするなっつうの」とセイヤは言う。「あの子たちはスターなの。パリピの女神なんだよ!」
「まあまあ、どうせあとで来るんだから。はやるなよセイヤ」と高城もあきれ顔で言った。
それを聞いていた晴夫が、驚いた顔をしてたずねた。「えっ!あの女の人たち、知り合いなんですか?」
高城が晴夫に答えた。「いや、いろいろ絡みがあってね。なんというか、人脈みたいなもんだよ」
「ふえ〜っ。ダニエルさんたち、すごいっすね」と晴夫は感心しきりである。
その会話を聞いていたことみは、ふと孤独感におそわれていた。
ダニエルさんたちとは、やっぱり住む世界がちがう。経営者、モデルさん、それにスターダンサー。それにくらべてあたしは何?
晴夫は、見た目はさえないけど、実家のお店で業界人と知り合いの、世なれた若者。クリオネちゃんはお金持ちのお嬢さま。でも、あたしにはなにも無い。
ダニエルさんと出会って、夢見るような経験もさせてもらった。でも、それはしょせん着せかえ人形みたいなもの。いっときの満足でしかない。自分の実力で獲得した地位でもないし、名声でもない。
生身のあたしは、ただのさえない独身女子。バイトに明け暮れる引きこもり。なんだか世の中に置いてけぼりにされた気分だなあ‥ますます気が滅入る。
「どうしたの、ことみさん?」高城が声をかけてきた。
ことみははっとわれに返って、うつむいていた顔を上げた。「あ、いえ。ちょっとお酒に酔ったみたいで」
「そうか。ふだんあんまり飲まないんだよね。無理しなくていいからね」高城は、ことみを優しく包むように言った。
ことみは、その言葉によけいに気が重くなった。親切にされると、逆に気がひけてしまう。でも、こんなことじゃいけない。せっかく招待してくれたのに、雰囲気台無しにしたら失礼だもん。ことみは気をとりなおして、大きく息をついた。
「おはコンバンチ〜!」かん高い女性の声が聞こえた。
「おお、ライラ!」とセイヤが声の主に振り返った。「ステージまで、まだ時間あるのか?早く来い来い。飲もうぜ」
その女性は、金髪にゴールドのビキニトップ、白いジーンズのショートパンツ、高いヒールの靴という姿だった。彼女は、いま売り出し中のgogoダンサーユニット『Peach(ピーチ)』のリーダー、ライラこと川原木ひかりである。高城やセイヤたちの仲間で、年齢は27歳。北海道出身の超がつく美人だ。
「盛り上がってるね〜。あたしもシャンパン欲しい!」と言って、ライラはソファーに割り込んだ。「あら、はじめての人たち。誰なの?」と言って、ことみたちの方を見た。
「ライラちゃん。僕の知り合いだよ」と高城が言った。「ことみさん。彼女は僕たちの仲間で、gogoダンサーのライラちゃん。いま大人気のスターなんだよ」
「いやだあー、健二くん。初対面の人の前で恥ずかしいじゃん。照れるう〜、あはは」と言いながら、ライラは腰をクネクネと揺らせてポーズをとった。さすがスターのセクシーギャル。照れ方まで色っぽい。
ことみは、とびきり綺麗な彼女のルックスに見とれた。「あっ、はじめまして。田中ことみと申します。ライラさん、すごくキレイですね。オーラが出てます」と、あこがれの眼差しで見つめた。
「よく言われるの〜」とライラが言う。「美人はつらいわねえ」
「また出たよ。自信過剰もここまでくると嫌味でしかないね」セイヤがライラを見上げて言った。
「あんたに言われたくないわ。見た目が全てって、セイヤくんのセリフでしょうが」とライラが反論した。
「確かに」セイヤはあっさり認めた。
「よし、みんな揃ったところで写メ撮ろうか」と高城が提案する。「メインステージをバックに記念撮影!」
「よっしゃあ!」セイヤがスマホを取り出して、七人が身体を寄せた。
「いえ〜い!!」
巨大できらびやかな《アルティマジャパン》のステージと、スーパーVIP席を絵に収めて、みんなでワンショット。そしてもうワンショット。
時刻は午後五時半。
六時からは、本日の主役、メインヘッドライナー『JUDGE(ジャッジ)』の登場だ。夜に向かって、いよいよ《アルティマジャパン》は本格的な盛り上がりを見せてきた。
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