華氏1600(1)

 気軽に外出するのにこの服装は寒すぎた。室谷佳澄は徒歩3分圏内のコンビニへ向かう為に家を出た瞬間に、薄着で来てしまったことを後悔した。だが、うちに戻りコートを脱ぎカーディガンを羽織りまたコートを着る行程を想像したら面倒になったので寒さに震えながらコンビニへ向かった。賢い選択肢ではないが、佳澄は気にしないことにした。寒さも気のせいだと思えばあまり寒くないかもしれないと、根拠のない理屈を脳内でこねあげる。

 しっかりしていて神経質なきらいがある友人にこれを話すと呆れられるだろう。いい大人なのだからちゃんとしないさいと。佳澄からすればこのくらい雑で年齢の概念に囚われない方が生きやすいと思っている。来週末はその友人と食事に行くことになっている。佳澄はとても楽しみだ。楽しみすぎて、雪が降りそうな天気でも小躍りしたくなるくらいはしゃいでしまう。何を着ていこうか、何を食べようか。アイシャドウの色まで考えると顔が綻ぶ。

 その時スマートフォンがなった。

 ブルーライトが光り、表示された名前を見て佳澄はため息を吐いた。一気に現実へ引き戻された。恋人の松田からのラインだった。

 せっかくの楽しい気持ちが台無しだ。

 佳澄のため息は寒さによって可視化される。ごまかしがきかなくなったことを忠告されたかのように思うのは考えすぎだろうか。

 いつまでごまかし、はぐらかすことができるかを考えている。

 佳澄は松田に決断を迫られていた。

 松田は佳澄に逃げ場を与えてくれるほど優しくも賢くもない男だと、ようやく気づいたのだが気づいた時には遅かった。

 ああ、心底面倒だ。


 面倒なことを憂いてる間にコンビニへついた。暖かい空気が佳澄を迎える。松田のことは、友人に相談ができない。佳澄はこれは私にしか解決できない問題だと理解していた。

 松田には悪意がないが、だからこそ質が悪い。佳澄の分配が圧倒的に悪い話だ。

 プリントサービスで書類を印刷した。松田はプリンターを持っていない。もちろん佳澄も持っていない。

 せめて松田がプリンターを買えば佳澄にとって少し松田の分配が上がるのにと思ったがすぐに、損得勘定でしか物事を考えられない自身を嫌悪した。

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永久凍土 ナカタサキ @0nakata_saki0

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