第33話 二人のパンチェン・ラマ11世③


「あなたもすでに気づいていることですが、彼の主治医はなぜだかみんな、

死んでしまうんですよね。なぜだと思います?」

 彼の言葉にリー・ルイは答えられなかった。

「教えてあげましょうか? 彼は神に愛された聖なる者。そしてその神の愛ゆへに

受難者になったのです。その聖なる神聖さに、みんな引かれてしまう。そして魅せられ、愛さずにはいられなくなる。そして最後には愛と言う名のもとに支配したくなる。彼のすべてを自分のものにしたくなるのです。

 私は彼のおかげで、誰にも本当のパンチェン・ラマだとは思われていないし、愛されていない。だから誰にも愛と言う名のもとに、煩わされなくてすむ。だから私は彼に、とても感謝しています。

 私は民にとってむしろ敵とみなされている存在ですが、民に自分の正義を確認させてあげられる存在でもあるのです。

 もう一人のパンチェン・ラマはその逆。その聖なる美しさで人心を惑わしてしまう。人の心の奥深くに鍵をかけて閉じ込めてある解き放ってはいけない欲望を目覚めさせてしまうのです」


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コードネームは「モナリザ」 来夢来人 @yumeoribitoginga

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