25-1. The Monochrome Sky
連戦に連戦が続いた中、先に戦闘態勢を整えたのはツバキであった。
「光武蓮紅」
体全体を光の膜が覆い、さらには身体能力向上の恩恵も受ける。紅の姫として実力以上の本領が発揮されている状態ならば、大技を出すのに力の溜めは不必要だった。
「紅蓮・百火繚乱!」
一度、ライを死に至らしめた火花が再び迫り来る。しかしライは冷静に、それでいて待っていましたと言わんばかりに、軽やかな足捌きを見せた。
「紫音十六夜」
紫の先祖、ライからすれば祖母が使っていた紫音の高速歩行術だ。予備動作無しで瞬時に駆け上がることができる。
「爆心・烽火連天!」
能力向上と攻撃を合わせたツバキの突進。たとえ避けられたとて、その直後に方向転換して直撃させるつもりであったが、ライは思わぬ所へ逃げ込んだ。
「紫影無明」
またもや先祖の力を借り、今度は影の中へと退避したのである。走馬灯で紫の系譜を垣間見たライは、歴代の剣技を無意識に会得していた。
「ちょこざいな! すべて消え失せろ!」
技の勢いそのままに飛び上がったツバキは空中に留まり、うずくまるように体を丸めた中心から光が集まってくる。
「炎魔・天戒瑞光!」
体を広げたと同時に爆発し、目が眩むほどの閃光が辺り一帯を吹き飛ばした。その輝きは影すら発生しない強烈な光であり、抵抗する気も失せるほどの神々しい破壊力だった。
「紫龍九頭覇!」
闘気を纏った刀を振るい、巨大な龍を模した斬撃を放出する。もちろん壁役として出したが、一時的に影を発生させる狙いもあった。
しかし、そんなことはお見通しであり、技の発動中にも関わらず、ツバキはこれ幸いにと強襲してくる。
「東天紅彼岸・熱烈峻厳!」
手前の拳と奥の爆発。生き残るためには、ツバキを盾にしつつ攻撃を往なすしかない。
「紫電胡蝶蘭!」
爆発が終わるまでツバキの拳を受け流し続ける。一瞬が永遠に感じられるほどの猛攻をしのぎ、最後に返しの一太刀を浴びせようとした時だった。
「陽炎・紅蓮螺丸!」
幻影による間合い調節。だが、幻術の類は紫の専売特許である。
「紫煙八百蜘!」
「炎舞・火天逆巻!」
神速の居合斬りを、かろうじて防ぐツバキ。首の皮一枚繋がったところを、さらにライは畳みかける。
「紫電一閃!」
「紅魔鏡」
飛ばした雷撃が反射されてライに命中するが、むしろ好都合であった。撥ね返った雷は彼の体に蓄積し、さらなる力を生む。
「紫電五光・迅雷」
光を置いていくような速度で飛び上がり、ツバキの頭上高くへと移動した。
「稲妻落とし」
落雷の如し速さで、ツバキ目がけて落下する。
「晴天大聖!」
攻撃速度に反応できないと察したツバキは、両の掌を模した巨大な闘気を展開する。ライは針を刺すような感覚で一点に集中を研ぎ澄ませたが、心臓への狙いは外れて左肩を貫く。
戦況を大きく左右する、重要な攻防を制したのはライだった。しかし、ツバキの顔から戦闘狂のような笑みは消えない。
「無駄だ。紅の信仰を司る回路は『破壊と創生』、不死鳥の如く何度でも復活する」
彼女が唱える信仰の回路とは、民から神へ、神から民へと循環する力のことだ。民族によって性質は異なるものの、中継役である姫は自在に力を扱える。
ツバキは民からの信頼が厚い上、ここに至るまで暴虐の限りを尽くしてきた。破壊するからこそ畏敬の念を集め、また創生するからこそ、完璧な円環構造となっている。
「旭蓋世・紅蓮大文字!」
先の戦争でギンを屠った大技を、惜し気も無く出せるほどに、ツバキは力に満ち溢れていた。
「今、楽にしてやる」
大気ごと燃やす巨大な火炎を前にして、ライは脱力する。もう逃げるのは止めだ。すべて真っ向から斬り伏せ、殺し尽くす。
「紫電改二・地獄蝶々」
右手に刀、左手に雷を宿し、二刀流の構えをとる。わざわざ大技を掻き消す必要は無く、ただ最小限の隙間を見極めればいい。
「雷霆撈月!」
ツバキからすれば、すり抜けたようにしか見えない挙動で、ライが何事も無かったかのように雷撃を放つ。またもに受けた彼女は感電するも、致命傷とはならない。
それでも、紫の毒が自分を蝕む悪寒が奔った。
「旭蓋世・摩利支天!」
全身に炎を纏い、巨神の姿を具現化する。これから最大の技を放とうとするツバキに向かって、ライは呑気に世間話を始めた。
「最後にひとつ、いいこと教えてやる。紫の信仰回路は『自由と支配』だ」
「守るべき民もいないくせに、信仰も何も無いだろ!」
「いいのさ。たったひとり、オレだけが信じていれば」
こんな奴に負けては、命を灯して戦ってくれた民に顔向けできないと、ツバキはより一層の力を込める。
「東天紅彼岸・煉獄・業火滅却!」
圧倒的な力による破壊。理不尽すぎる天災を体現する一撃に対し、ライはゆっくり刀を両手に持ち替える。
「紫電一閃・鳳」
正直、ライは戦う前からツバキの火を脅威とは思っていなかった。確かに荒ぶる火炎は触れれば己が身を焼き尽くすだろうが、それと同時に、エンジの温かさを感じていた。
「千紫万紅!」
上段から振り下ろす一太刀。その、あまりにも愚直すぎた太刀筋は火炎を引き裂き、熱を呑み込み、業火の化身を両断した。
霧散する炎から現れたツバキは地面に降り立つも、その眼は驚愕に見開いている。わなわなと体を小刻みに震わせ、何か言いたそうにライを睨む。
「地獄に落ちろ」
ライが告げた瞬間、ツバキの両腕は胴体から離れ落ち、真っ赤な血飛沫が羽のように飛び散った。そして膝から地面に着くと、最後に首が跳ねて転がり落ちる。
その光景をライは眺め、彼女の死を見届けた。
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