19-3. Beer Beer
「狒狒猩紅!」
「不知火」
直接攻撃と、陰陽術による中距離攻撃。二人の連携に対し、アサギは槍の一振りで対処して見せた。
「蒼破裂空!」
火と水の相克関係。二人がかりでも手間取ると考えたウメは、冷静に状況分析をする。
「この者の相手は私達だけで十分です。どうぞ姫はお先に」
「うむ」
この場を去ろうとするツバキを見て、アサギの心にも焦りが生じた。
「よそ見してる場合かよ!」
一瞬の隙を突き、スオウの金棒が襲いかかる。即座に対応するアサギ。
「蒼波水蛇!」
いくら相克とはいえ、多勢に無勢。ツバキを追うなら強引に突破するしかないが、単純な力比べではスオウが勝る。
どうすれば状況を打破できるか戦略を練っていたところ、アサギの背後から一陣の風が通り抜けた。
「疾風・花鳥風月」
一本の矢が突き刺さろうとする寸前、ツバキは素手で難なく受け止める。
「……何の真似だ?」
視線の先には、悠然と弓を構えるアスナの姿があった。戦う意思を見せながらも、彼女は毅然と対話を試みる。
「それはこちらの台詞です。紅の姫よ、度重なる戦いで気が触れましたか?」
「残念だったな。始めから正気ではいられなかった」
「狂人の戯言として聞き流しておきましょう。今ならまだ間に合います。こちらに戻って来てください」
「間に合うだと? 違うな。いつだって手遅れだ」
「だとしても、取り返せる。無理やりにでも、貴方を止めてみせます」
「やってみろ、臆病者が」
お互いに分かり合えぬまま袂を分かつ瞬間、スオウがアスナに襲いかかった。
「怒首我羅!」
不意打ちのつもりであったろう攻撃は大振りであり、その隙をアサギが見逃すはずもない。
「流転・漣!」
「火天・逆巻!」
当たれば確殺だった攻撃を、尋常ならざるツバキの反応速度で阻止する。
「す、すまねぇ姫!」
「構わん! 目の前の敵に集中しろ!」
一旦、仕切り直しとなった両者。間合いをはかって警戒しつつも、アサギは突然の加勢に礼を述べる。
「助太刀、感謝する」
「お礼はけっこう。やりたくてやっていることです」
会話をしながらも、アスナはツバキから視線を外さない。
「足手まといの間違いだろ?」
「それで足止めになるなら結構」
ツバキの軽口でさえ、アスナにとってはそよ風に等しい。その態度が癇に障ったのか、ウメが横から陰陽術を放つ。
「緋連雀!」
飛び道具を矢で撃ち落とすのは至難だが、あろうことかアスナは弓を真っ二つに折った。
「吟風弄月」
分離した弓は双剣となり、火の雨を悠々と潜り抜ける。その憮然とした佇まいを見て、ツバキは苦々しい記憶が蘇った。
「……氷の刃? それはあの忌々しい黒の武器か?」
「いいえ、銀の技です」
「予がそれに勝ったことを知らぬわけではあるまい?」
「勝つことが目的ではありませんので」
「笑止! 豪火絢爛!」
迫り来る火炎を、アスナはさらりと避ける。鋭い観察眼で、ツバキの隙を見逃すまいとしていた。
「予は弟の仇ぞ! 憎くはないのか⁉」
「憎しみは断ち切るべきです」
「面倒だ、まとめて燃やし尽くしてやる!」
「させません!」
後方に下がり、力をため始めるツバキ。何か危険な予感がしたアスナは突撃しようとするが、それをアサギが制止する。
「待て! あれは誘い込む罠だ!」
「では、どうすれば⁉」
「弓があるだろ! 私が敵を引きつけている間にやれ!」
「後ろ!」
アスナが指し示した先では、今まさにスオウがアサギに襲いかかろうとしていた。
「猩々緋滅!」
「青天流占星術・水牢!」
武器で受けるわけでもなく、アサギは占星術でスオウを水の中に閉じ込めてしまう。彼は術から脱出しようと藻掻くが、自慢の金棒は水の中を切るだけだった。
ひとまずの窮地が逸したことを確認してから、アスナは武器を双剣から弓へと変形させる。
「乾坤一擲・光風霽月」
狙いを定めて矢を放つも、ツバキの周囲は高温に熱されており届かない。
「駄目です! 矢が燃えてしまいます!」
「私の槍を使え!」
「だから後ろ!」
投げて寄こされた槍を慌てて受け止めるアスナ。丸腰となったアサギの背後では、今まさにウメが襲いかかろうとしていた。
「スオウを放せ!」
「貴様には素手で十分だ!」
分銅を避けるだけでなく、アサギは鎖を手に巻いて引きつけ、そのまま拳をウメの腹部に叩き込んだ。
「ぶぐぁ……!」
悶絶するウメの悲鳴を聞きながら、アスナは味方の頼もしさに落ち着きを取り戻す。
地面から草木を生やし、弓を地面に固定させる。さらに木を伸ばして弓を巨大化させ、強化された弦に槍をあてがえた。
「疾風操流・銀華狼月!」
ありったけの精神力を込め、放たれた槍はツバキの左肩を貫く。
「致命傷です! 今すぐ争いを止めなさい!」
もはや勝負あったとアスナは高らかに宣言するが、ツバキは不敵な笑みを崩さなかった。
「辞世の句はそれだけか?」
「逃げろアスナ!」
アサギの叫びも虚しく、天災のような暴力が無慈悲に降り注ぐ。
「紅蓮流赤手空拳奥義・百火繚乱!」
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