9-1.環太平洋擬装網
農民達が一生懸命に耕した畑の上を、黒い兵装に身を包んだ集団が進軍する。後方から大砲を撃ち込まれ、草原の民は為す術も無く逃げ惑うしかなかった。
「黒い軍勢だぁ! 戦闘員は配置につけ! それ以外の者は退避ぃ!」
突然の事態に対応できず、若い戦士も統率が取れないまま応戦する。ほとんど黒からの返り討ちに遭っているが、それでも時間稼ぎという役目は果たしているようだ。
「あわわわわ……」
足腰の弱いお婆ちゃんが転倒し、すぐにツバキが駆け寄った。
「ばっちゃ大丈夫か⁉」
「お前は早く逃げんしゃい! 儂らは足手まといになる!」
「そんなことできねぇ! スオウ、ウメ、予も打って出るぞ!」
ツバキは黒い軍勢に立ち向かおうとするも、今度はウメが必死に引き止める。
「なりません! 紅の本願はどうなさるおつもりですか⁉ ここは逃げましょう!」
「返って好都合だ! 草原の国が攻め込まれた以上、紅と手を組まざるを得なくなる。それに隠れ里の者も異変に気づくだろう。加勢が来るまでの辛抱だ」
「流石は姫! 仰せのままに!」
闘志が燃えるツバキの瞳を見て、感激したスオウが同調する。こうしている間にも大砲は撃ち込まれ、その砲撃音が嫌でも戦争の悲惨さを呼び起こす。
ただ正面から特攻するだけでは駄目だ。何か策を講じて、存分に戦える状況を作り出さなければいけないだろう。
「まずは草原の戦乙女と戦略会議をする必要がある。予について参れ!」
非戦闘員を避難させつつ、三人は草原の国の城へと入った。
× ×
城内へと入ったツバキは、我が物顔で作戦会議室へと乱入する。
「首尾はどうだ?」
突然の訪問者に対し、会議室内にいた人間の視線が集中する。また、その中にいた老婆がツバキの姿を見て、急にとち狂ったかのように狼狽した。
「ひええッ⁉ この者は災厄じゃあ! 草原の国に、かつてない不幸をもたらすぞぉ! 黒い軍勢が攻め込んで来たのも、この者が原因じゃあ!」
「やかましいぞ糞婆! もうなってしまった以上、預言者に存在意義は無い! さっさとこの部屋から出て行け!」
「おお、恐ろしや。鬼の子じゃ。アスナロよ、今すぐこの者を生贄に捧げれば、草原の国は神のご加護による恩恵を受けれるじゃろう」
「お婆は黙っていてください。そして国から出て行ってください。紅の姫よ、問題ありません。御心配なさらずとも、この国を囲う城壁の守りは盤石です」
どうやら籠城戦をするつもりらしい。それが愚策だと知っているツバキは、会議室全体へ警鐘を鳴らす。
「馬鹿者が! 貴様は大砲を知らんのか⁉ 石の壁など鉄球で粉々だ! 手遅れとなる前に、兵を陣地に配置しろ!」
だが、そんな忠告もアスナロには届かない。
「私達には私達の戦い方があります。余所者が口を出さないでいただきたい」
「勝手にしろ! 予も勝手にする!」
それだけ言うとツバキは部屋を出て、待機していたスオウとウメを引き連れる。そして螺旋階段を下りながら、怒り心頭で愚痴を吐いた。
「はん! 戦乙女が聞いて呆れる!」
「これから、どうなさるおつもりですか?」
ウメが控え目に問いかける。それに対しツバキは振り返ることなく、ただ淡々と自分がやるべき使命に燃えていた。
「壁の中で待ち構えるしかあるまい。この戦争に限っては、負けなければ勝ちだ!」
この場から逃げたところで、また同じ壁が立ちはだかる。側近のスオウとウメは主君の決意を汲み、いつでも戦闘できるよう臨戦態勢に入った。
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