走れ!
声を聞いた気がした。
聞き覚えのあるトーン、聞き覚えのある焦燥感。
思考は地上を離れ、遠い過去に浮遊していた。
足が地面を蹴る感覚は、もう随分前からなくなっている。
意識は朦朧としたが、思考は止まらない。
全身が脈打つ音だけがやけに大きく聞こえる。
遥か遠かった背中が、今ははっきりと見えるところまで近づいていた。
近づいているが、届かない。
ゴールまでの道のりは、いつだって置き去りにされるには十分な長さだったが、追いつくには短すぎた。
『百メートル走でチーターには敵わない。でも、マラソンなら地球で一番になれる』
その時、前を走る背中が消えた。最後のコーナーを曲がったのだ。
その先にはもうゴールしかない。思わず心の中で舌打ちが漏れた。
「走れ!」
その時、再び声が聞こえた。
今度はさっきよりもはっきりとした輪郭があった。
『なんか可能性感じんだよな』
思わず笑みがこぼれた。
妙にほっとした気持ちになって、不覚にも涙が出そうだった。
もう走ってるっつーの!
転ばないように、でもスピードが落ちないように、左足に力を込める。
体を内に倒し、勢いよく右折する。再び現れた背中は、思ったよりも近かった。
いける。
最後の直線で、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます