閉塞感だけが私を取り巻いておりました。
閉塞感だけが私を取り巻いておりました。館は山中にあり、視界に映るのは山の峰ばかり。見るものといったら、夜ごと空にかかる月しかないではありませんか。そんな場所に嫁いで、私は孤独に苛まれていたのです。
私は山の館に嫁いだ者で御座います。親方様に嫁いだ当初は、それはそれは寂しい思いをしておりました。
私の周囲に既知の者はおらず、私は人寂しさに夜毎琴をかき鳴らしていたのです。仰ぐと私を照らしてくださる月だけが、私を慰めてくれました。
そんな私に、子ができたのはいつだったでしょうか。大きくなった私の娘は、私と琴を弾くようになりました。
私たちは琴をお互いに奏で合います。私が低い音を奏でれば娘は高い音を、私が悲壮な音を奏でれば、娘は私を慰めるように明るい曲を奏でました。
語らずとも、私たちは琴を奏でることで通じ合っていたのです。
月明かりのもと、私は琴を通じ愛しい娘と語り合いました。
人の別れというものは、突然やって来ます。病に体を侵されていると知ったときは、もう遅かったのです。寝たきりになった私を娘はとても心配しました。
私は娘に、ただ疲れただけですよっと、笑って誤魔化したものです。
ですが、琴の音で嘘をつくことはできません。その日の夜、私は悲しい音しか奏でることができませんでした。娘を見て、私は涙を流したのです。
私の涙は月明かりに蒼く煌めき、琴に落ちました。
それからまもなくして、私はこの世から旅だったのです。
私は幸いにも極楽浄土にいくことができました。月に咲く蓮の上に私は生を受けたのです。私は月の下に広がる現世を眺めました。地上では娘が独り、私の琴をかき鳴らしているのです。
寂しい。寂しい。
娘の奏でる曲は、私を喪った思いに彩られておりました。
哀しい。
娘の琴の音は、天上にいる私を悲しませます。私は娘の曲を聴くたびに、涙を流しました。
私は仏さまに祈りました。どうか、娘に合わせて欲しいと。
極楽に生まれたものがその事実を喜ばす、涙するとは如何なものでしょうか。
ですが、私は地上に戻りたかったのです。
たとえ獣に生まれ変わってもいい。私は娘の悲しみを癒したいと思いました。
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