賑やかな一行が

 賑やかな一行が、私を登っていくではありませんか。私はお屋敷を囲む山でございます。お屋敷の庭から賑やかな獣たちの一行が跳び出てきて、私の体を登っていいる最中なのです。。その中に、いつも悲しい曲を奏でておられた、あの美しい姫さまもいらっしゃいました。

 少し昔の話をいたしましょう。

 実のところ、この山に棲む獣たちの前世は、私を根城に悪さを働いていた盗賊どもなのです。その盗賊たちの拠点は、姫さまの住むお屋敷の辺りにございました。 悪行三昧を重ね、ついには六波羅探題の将たちに討ち取られた彼らは、畜生道へと堕ちこの山の獣へと転生いたしました。

 獣となって生まれ落ちた彼らは、経文を唱えることすらできません。彼らは死んでから極楽浄土へいくことが難しい身の上なのです。そのことを深く恥じ、彼らは前世の行いを嘆いておりました。

 私は彼らの嘆きと共に、哀しい琴の音も訊くようになりました。

 私の中に建っているお屋敷から、その美しい調べは聞こえてくるのです。その音を聴くたびに、私の心は哀しみに沈みます。亡くなった母を想い、幼い姫さまは夜ごと琴をかき鳴らすのです。

 なんとも哀れな姫君。私はそんな姫さまを慰められないかと、心を悩ませておりました。そしてある日、ふと思いついたのです。

 それは、蝋梅色に輝く月を見あげているときでした。私はふと、山中に生まれた蝋梅色の子狐のことを思い出していたのです。仔狐は幼くして親狐を失い、独り寂しく日々を過ごしていました。

 私は、蝋梅色の仔狐に話しかけました。

 お前が獣に生まれ落ちたのも、親を亡くし一人寂しく生きるのも前世からの報いのせいである。その報いを晴らす方法があると。山中の館で琴を鳴らす、姫さまのもとへ通いなさいと。

 姫様は自分たちを救ってくれる観音さまの化身である。そんな噂が山の獣たちの間に広まり、山の獣たちもお屋敷に集まるようになったのです。

 そこから先はご覧の通り。ただ、私には一つだけ懸念していることがあります。この山には、前世の業を悔いない者もおりますゆえ。

 あら、いけない。噂をすれば、彼が来てしまったではありませんか。しかも、姫さまたちを睨み付けております。

 姫さまを睨みつけているのは、この山に棲む狼です。刃のように鋭く光る白銀の毛を逆立て、彼は姫さまに唸っておりました。

 この山で山賊の頭をやっていた彼は、その業から狼としての生を賜りました。前世でも悪逆無道な奴でしたが、その心根は獣の身に落とされても変わらないようです。

 彼は日頃から申しておりました。人の世に生まれ落ちたときも、自分は修羅の道を生きてきたと。ならば、獣に落とされた今も修羅の如く生きようと。

 そんな彼が姫さまに牙を向いているではありませんか。姫さまは毅然と狼を見つめ、自身の背後に獣たちを匿います。獣たちは姫様の後ろで震えるばかり。

 やや、そんな姫さまの背中から颯爽と出てくるものがあるではないですか。

 狐です。蝋梅の毛色をした狐が、姫様を庇うように狼の前に立ち塞がりました。

 

 

 

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