何からも日記だった

韮崎旭

何からも日記だった

 何からも回復できないまま、漠然と過ごし、過ぎ去らせて、時間らしいものを使う。手には鉛筆が握られていて、自身の不具合を書き記している文章に未知を探し出したがっている。出先にいないと落ち着かないのだ。出先にいると死んでしまうのだ。キャラメルら手を注文したのはカフェインと糖を速やかに取りたいからで、別にメタンフェタミンでも合法でもしそれがあったなら、構わなかったのかもしれない。


雪は何色か。サイレンが横切る。私が、誰かが。サイレンと鮫、とそれからにわか雨。逃げては消えた、どこの虚像が?

七色の電球だけが真実で現象となり期日を塞いだ。

嘆いても嘆いて見せても嘲笑が、唯一私が受け取る報酬。

 

 いま廊下にはたくさんのごみが放置されていますが、捨てる気になれません。私は任意の誰かになりたかった、それは日記を、その誰かが書き得るからなのだろうか?

時折に包丁の背で叩き割るエビの背ワタに会した網膜。


ひび割れた装丁の背は中古本、ハイデガーではなかったけれども。

富として眠りを誇り着飾って、貴方の麻痺は移ろいを知る。


 この様にランダムに言葉を並べてゆきます。四六時中休みになったせいで、四六時中日曜の午後でもあるから、四六時中月曜の朝であるのと其れは同じで、ああ今日はもう首をくくろうと四六時中考える人間をしている。このように無造作に字を置く際に注意するのは誤字脱字とか。ミートソースが余っていること、に知らないふりをしたいこと。冷凍室には虚飾と購買意欲を入れてある、ここは都市ではない。先人の頃にも都市ではなかった。ここは工業地帯ではない、私の後ろで羊が笑った。ここはみかんではない。170ヘクタールのキャベツ畑、近郊農業の盛んな土地。この場は狭義では人口減少社会におけるとても荒廃する寒冷な閑散。出会う度広がる溝や会話とか、素知らぬふりで笑って見せたり。カフェオレに渦のように溶けてゆく誰かが書いた憎悪、『悪しき造物主』(シオラン)。まだ「悪しき造物主」しか読み終わしていないといった私は、次の日から著しい疲労に見舞われてしまった。疲労に人格をあたえるのは良くないという姿勢は常にある。その姿勢に賛同するかはまた閥のこと。

そのようにアンバランスに言葉を置いてゆきます。傘の柄をつかんだ指が凍ったら3月も末、終末論者だ。


ささやいたはずだった呪詛いつの間にこんなに大きな果実になったの?

曇天に静けさの檻、子ネズミは配管たちの迷路で踊った。


 ねえ染色体異常、僕の脳髄は何なんだい、ねえ、〈二桁くらいの自然数〉番染色体トリソミー、ねえ、逆さのアジサイの花、移った、異常者が、聞き耳。教えてよ、カナー、説明して呉れよ、ウィング?(敬称略)

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