第14話 待ち合わせ

 亮二から誘いを受けた翌日の放課後――とある工場入り口に、樫木の姿があった。


 (時間よりだいぶ早かったか……)


 腕時計を見て少しだけ乱れた息を整えた後、工場を見上げる――。

 昨日検索をかけたので、ここがタオル工場だと知ってはいたが「何故どこにでもある、一般的な普通の工場なのか?」樫木には検討もつかなかった。



「……そこで何してるの?」



 工場に似つかわしくない声に振り返ると、茶色いランドセルを背負う赤毛の少女が、不思議そうに樫木を見つめていた。


「人と待ち合わせをしていてね。君こそ、ここで何をしているんだい?」


 まだ10歳にも満たないであろう少女に、膝を曲げて視線を合わせる。


「ここは私のお家だよ……あっ! そっかぁー、リサが『今日だ』って言ってた!」


 少女の笑顔と同時に工場のシャッターが自動で上がり、中から作業着姿の三郎が現れた。


、ただいま!」


「おう」


 少女に抱きつかれた三郎は、照れ臭そうに返事をする。


「待ち合わせか? 此処は目立つから、中に入れ」


 スーツ男がずっと外に立っているのも確かに異様なので、樫木は三郎の指示に従った。


「誰を待っているのか?」と、パイプ椅子を2脚用意した三郎。

 自己紹介をしつつ、冷たいお茶を入れてくれた工場長の質問に、樫木が一通り答える。


「……そうか。あんたもになるのか。運がないな」


 残念そうに三郎が息を吐き、バスタオルを樫木に渡す。


「会ったばかりだか、餞別せんべつだ!」


 樫木は『不運な男について』詳しく聞きたかったが、三郎の長いタオル話(自慢)のスタートが既に切られていた。


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