第7話 四姉妹と過ごす日常風景

「ちょっと! コンビニに行ったきり、何してたのよ!?」


 亮二の帰宅早々――短パンに7分丈のTシャツ姿で、ラフに纏めた茶髪のお団子頭を揺らす姉の綺羅きらが、ハイネックソファーの背もたれから顔を出す。


 佐久間家の長女でもある今年女子大生になったばかりの綺羅は、大きく形の美しい瞳が印象的な、欧米寄りの完全なる美人だ。 

 背も高くスタイルもモデル並みだか、残念ながらその性格は超が無限に付くほどの女王様気質だった。


 休日の朝らしい独特な情報番組が流れるテレビを消すと、彼女はソファーから立ち上がり、スマートフォンの画面を亮二に向ける。


「夜中に会う友達って、誰!? つーか、アンタに友達なんていたの?」


 明らかな姉の誹謗中傷にも全く動じない亮二は、組織が勝手に送ったと思われるメッセージ画面を見て鼻で笑い、アイスやデザートの入ったコンビニ袋を彼女に渡す。


「まあな……友達というよりは、上司って感じかな?」 


「は? 何それ!? 私以外のパシリなんて、許さないわよ!」 


 この身勝手な発言も姉の通常ではあるが『後半年で、それすら聞けなくなるかも……』なんて考えると、亮二は複雑な感情を抱いた。


「何よ? その顔……気持ち悪い!」



「……ふーん。年上のね!」


 少々困惑気味の綺羅と余裕の亮二に向けて、リビングの入り口から『間違った推理』が飛び込む――。


 白く軽やかなワンピースを着こなし、黒髪をアップにした清楚系の女子高生で、亮二より1つ上の姉でもある次女、加奈子かなこの台詞だ。

 彼女も美しい顔立ちをしているが、綺羅とはまた違う日本的な女性で、性格は冷静沈着……女子高生ながら既に将来を見据えた、思想と目標を持つ才女である。


「そんなんじゃねーからっ!」


 一応否定はしてみたが、一度思い込んだら修正の効かない加奈子の性質上『これ以上は時間の無駄』だと悟った亮二は、キッチンに立ち、遅めの朝食を作り始めた。



「兄貴ぃぃー! 私の弁当もお願いっ!」


 少し時間を置いた後、下から2番目の妹が2階の階段を駆け降りる。


美海みなみぃー。なんでもう少し早く起きられないんだ? 試合に部長が遅れたら、洒落になんねーだろ?」


五月蝿うるさいなぁー! 毎日練習で疲れてんの! 早く作ってよね!」


 身長は低めだがバスケ部の彼女は、中学2年になった今年の夏から部長を勤める、ポイントガードだ。

 パッチリした瞳と小さな顔……生意気な性格とは真逆の、かわいい系女子で『黙ってさえいれば、アイドルにも匹敵する美少女だ』と亮二も認めている。


 派手に寝癖がついたショートヘアを直しに、兄の心いわく『残念な美少女』は、洗面所へと消えて行った――。

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