第5話 第一兵器(下僕その3)

 亮二が入った部屋の中は、至ってシンプルだ。


 白い壁に、高価な木製机と革張りの椅子……。


 そしてその前に立つのは、眼球に青空をそのまま落とした様なスカイブルーの瞳を持つ、華奢な少年だった。


 美しい銀髪オールバックと、陶器を思わせるなめらかな白い肌までもが、引き立て役に回る程の完璧な顔面……正に無双レベルの美少年と言っても、大袈裟ではない。

 

 しかし相手が芸術級の超美少年だろうが、得体の知れない怪物だろうが、今だ嫌悪感を隠さない「平凡顔」亮二に、少年が若干のわずらわしさを見せながら話を始める――。


「お前はこれから我々の兵器となる。まずは他の兵器を1人、この基地へ連れて来い。詳しい話はそれからだ。以上――」


「は!? 意味分かんねーよ。先に暴力行為を謝るべきじゃねーの?」


 威嚇をする亮二に、少年が微笑む……。


 (この世に悪魔が存在するとしたら、多分同じ微笑みなのだろう)と、亮二は思った。


「もうそろそろ、筈た。私は、リサ・ミトミア……人間ではない。お前にはすでに我々の『進化』を埋め込んである。後はそこから読み取ればいい」 


 リサが机の引き出しから液晶パットを取り出し、亮二に渡す。

 パットを指先で叩くと、鏡と化した画面に自分の顔が映し出された。


「色が違う……」亮二は変化してゆく自身の瞳に意識を集中させる――。


 瞳の色はスカイブルーから濃紺へと変化し、その奥に何か物体が見えた。


「えっ!? 戦……艦?」


 亮二の思考が一気に開く――。


 彼の瞳に現れたのは、巨大な黒い三角柱さんかくちゅう型をした物体と、その回りを取り囲む様々な形をした無数の浮遊物だった。


 濃紺の瞳から物体の映像が消え、普段の黒目が戻ったことを確認した亮二は、パットをリサへ返す。


「これは……」 


「そう。お前が落とすべき戦艦群だ。母艦の規模は、この国の首都を難なく覆い尽くす。悩む暇も余裕も無い……半年後にこの星は奴等に攻められ、人間はほぼ絶滅する。何もしなければ、制圧されるのにさほど時間も掛からないだろうな……」  

 

 亮二は、全身の血の気が引くのを感じた。


 SF映画の様な話を彼がすんなり受け入れられたのは、リサが埋め込んだと言う『進化』が原因だ。


 (自分はもう、のか……)


 外見的な変化こそないが、中身の明確な違いを亮二は既に感じ始めている。


 (逃げようが隠れようがどの道、この地球……世界は終わる――)


「事態が把握できた様でなによりだ……」


「はい。大佐」

 

 亮二は床に片膝をつけて、リサに一礼した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る