第3話 揺れる乙女心

 亮二が拉致された同時刻――。

 

 ソファーに座り、黒髪を耳に掛けたボブヘアーのまだ幼さが残る少女。

 彼女は暖かいブラックコーヒーの入ったマグカップを両手で持ち、雨が降る窓の外を眺めながらふと呟いた。


「ねえサフラ。もう接触したかな?」

 

「ええ。今頃は大佐の姿を見て、言葉も出ない程に驚いているでしょうね」 


 クスリと笑いながら長い金髪をゴムで束ねた後、サフラと呼ばれる美しい顔立ちの長身女性は、少女が眺める窓のカーテンを閉める。

 

「長く時間が掛かってしまい、申し訳ありません」 

 

 サフラの一礼を見た少女は、首を横に振った。

 

「それは仕方がないわ。貴方達にとって、失敗は破滅なのでしょう? 慎重になるのもわかります。それより……」 


 少女はそう言いかけ、マグカップの中で湯気を立てるコーヒーをぼんやりと見つめる。

 

佐久間亮二さくまりょうじですか? 確かに心配ですよね。簡単に受け入れるとも思えないですし……しかも、迎えに行ったのが大佐ですから」

 

「そうなんだよね。それに今更だけど、人間は巻き込みたくなかった……せめてこの星でも、守る事ができればいいな……」


 コーヒーに写る自分の顔に「後悔と不安」が入り交じっているのを確認した少女は、溜め息を吐いて目を閉じた。 

 

 そんな様子を見たサフラは少女の正面に立つと、片膝を突いて心配そうに彼女の顔を覗き込む――。

 

「カナリナ様、愛着や同情は失敗を招きます。どの道この星は、自ら破滅を迎えるでしょう……その予兆を分かっていながら、未だ有効的な解決策も見い出せていないのです。そんな統制1つまともに取れない人種を私達が助けた所で、結果は同じです」

 

「うん……」 


 カナリナは小さく返事をし、目蓋をゆっくり開ける。

 

「どうか、この星や人間を助けようとはしないで下さい。私達は失いたくはありません。貴方はで、なのですから」 


 そう表面上は言い切ったサフラにも、どこかやりきれない思いが宿っていた。

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