【未来026】人生の覗き穴【性描写あり】

 一体どうしたってんだ。最近の俺は、自分がわからない。これは、あれだ。あの時からだ。


 あれは一月ほど前、酔っ払ってネットを彷徨さまよっていたら面白いサイトを見つけた。『他人ひとの人生を経験してみませんか?』意味がわからなかった。他人の人生を経験ってなんだよ。違う人生なら分かるよ。それならシミュレーションだと思うわな。それが『他人ひとの人生』だよ、「こいつら日本語間違えてんじゃん」としか思わなかったよ。

 そん時は酔っ払ってたんだ。上司の朝令暮改な指示と愚痴と嫌味にいい加減ストレスが溜まってて。今と違う人生って響きに惹かれた訳よ。ポチッとね、申し込んだんだな。


 次の日、醒めてみると、受付完了メールが来てた。俺はメルアドを入れたつもりはなかった。ポチッと押しただけだよ。

 入会金も引き落とされているし、それが結構高かった。慌てて取り消そうとしたけどそんなサイトどこにも見つからないんだよ。履歴を調べても無くてね。詐欺サイトに捕まったかと後悔したよ。酔ってネットを彷徨さまようもんじゃないね。


 それで終われば単なる「騙された」案件なんだが、帰宅したら宅配が届いていたよ。「おお、案外真面目な業者だったんだ」と呟きながら、荷物を開けたさ。

 中にはバイザー付きヘルメットのようなものが入ってて、あとは簡単なマニュアルが入っているだけなんだよ。マニュアルも電源とネットへのつなぎ方、あとは電源の入れ方だけ。それが何をするものかどこにも書いてない。ネットにつなげば何かわかるだろうって。つないだよ、普通つなぐよな。


 マニュアル通り、ベッドに横になってヘルメット被って、電源入れて、あとは書いてあった通り叫んだよ。

「リンクスタート!」

 色とりどりの光の筋が視野の真ん中に向けて集中してくる。初めてだからひどいめまいがしてね。次の瞬間気がつくと、宙に浮いていんだよ。VRっていうの?すごいねぇ。全然違和感ない。


 目の前のパネルに説明があってさ、やっと何をするものかわかったよ。

他人ひとの人生を経験してみませんか? 一ランク上の生活を楽しんで見ましょう』ってな。やはりこれは、人生シミュレータだったんだ。

 いくつかの選択肢の中から『高給サラリーマン、年収二千万の暮らし』を選んだんだよ。まあ俺の年収の二倍以上だからあこがれもあったからな。五千万とか、一億とはないのな、なるほど一ランク上かと納得したね。

 どうやって選んだりプレーするのかと思っていたら、考えた通りに動くんだよ。すごいね。それで選んだら、今度は暗い穴に落ちていく。いやリアルだったね。体感もあるから最初は怖かったよ。そのうち慣れたけどな。


 気がつくと、マンションの一室に立っていた。バスローブなんか羽織って、流石に一ランク上の生活ってか。いや、確かにマンションは広いし、景色はいいし、家具もグレードが高かったね。俺はどちらかというと服と酒に金を使う方だから、今住んでるこのマンションは、まあ、それなりだな。


 いやいや、カミさんが美人で、色っぽいのが最高だったね。

 このVRってモノ、すごいね。感覚までリアルに感じ取れるんだよ。カミさんを抱くとね、こう、肌の感覚や匂いまで感じ取れるんだよ。あれ、どうやってんるだろうね。楽しくってね。入れ込んだよ


 でも、人間いつかは飽きるというか、魔がさしちまったんだな。

 ある時、そうだな、始めてからひと月ぐらい経った時かな。一戦頑張ったあと、カミさんが「あなた、わたしもうだめ、今日はもう勘弁して」と言って寝ちまったんだ。


 俺は、それなりに疲労感があるが、所詮VRというか俺の体が疲れている訳じゃない。一ランク上の俺は顔は中々の男前で、生活にも余裕があるし、これで女ナンパしたらいけるんじゃないかと思ってね。


 俺自身がよく通ってたバーに行ってみた。それが、途中もそうだが、店内がそのままリアルに再現されているんだよ、すごいね。どうやってデータを取ってるのか、このシステム作ったやつら天才頭おかしいじゃないかと思ったよ。

 もちろん、仮想の俺を知ってるやつはいない。これ幸いといい女に端から声をかけたね。なんというんだろうね。自信と度胸の違いかね。本物の俺だったら、声をかけるのに躊躇するような、いい女に平気で声をかけられんだよ。


 ある女といい感じで話し込んで、ここひと月ほどのプレイで得た知識も動員してだな、二人きりで飲み直すことになったのさ。

 場所を移して、ホテルの部屋で少し飲みはしたよ。でも、こうなったらやることは決まってるだろ。


 実をいうと、俺には悪い癖がある。行為の最中に首を絞めるのが好きなんだ。もちろん、強くは締めない。首に手を回して軽く締める。すると、女も緊張してより感じるんだな。そりゃもちろん嫌がるやつにはやらないよ。

 それが、その女ときたら首に手を回すだけで、ヒクついて感じ始めたんだよ。嬉しいね。少し休んではまた締める。これを繰り返しているうちにどんどん下も締まるし、乱れるし最高だったね。

 そこで、思っちまったのさ。これは、VRだよなって。最後まで締めたらもっと、いいんじゃないかって。頭の端に浮かんだ考えがどんどん広がってくんだ。VRなんだからって。とうとう、動かなくなるまで首を絞めちまった。いや、気持ちよかったな。

 その日は、面倒臭いからそのまま電源を切ってプレイを止めちまったんだ。


 数日後、そのシミュレーションがなくなってたんだ。スタートの部屋にいっても、他のやつはあるんだが、例の一ランク上ってやつが無くなってたんだよ。

 つまんなくって、テレビつけたらニュースをやってて。

 それが、ホテルで女が首を絞められて死んだ事件でさ。女は俺が首を締めた女そっくりで、犯人もVRでなってた男にそっくりで、その自宅が同じ住所なんだよ。詳しくは報道されていないわからないが、名前とかそのままだった。

 俺は、怖くなって装置を捨てたよ。絞めるのは好きだが、本当に殺すのはなしだ。

 それから、おとなしく暮らしてる。絶対大丈夫だとは思うが……


 それが最近、変なんだ、気がつくと違うところにいたり、買った覚えのないものが届いたり。ある時は隣に知らない女が寝てたよ。すぐ、追い出したけど。俺はどうしまちまったんだ。

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