【No. 077】僕がご飯
夜中に意識が戻ったのか、まだ夢の中か、まだ目は開いていない。体は目ざめていないのか全く力が入らない。腕を動かそうとするが筋肉に意思が届かないのか動いてくれない。パジャマ越しに上掛けの重みを感じている。遅い春が早い夏へと移ろうとしている時期、まだまだ夜更けは冷え込む。厚めの毛布が体にまとわりついて目が覚めたのか、と夢うつつの頭で考えていた。
何かが腕に触れる。柔らかく滑らかなものが触れるか触れないかの感触を残し、腕から肩へと動いていく。決して嫌な感じじゃない。
触れられている感触は肩から鎖骨の根元にむけ移動していく。次々と光の塊が生まれアタマに向かう。やがて触れる感触は臍の下へと移動していく。
やがて、優しく柔らかい感触は下半身を包み込み、身動きできないままの僕から恍惚感で呻き声が漏れた。そのまま、敏感になった皮膚感覚にしばらく耐えて落ち着くのを待った。
やっと鼓動も平常に戻ってきた僕は夜具をはね除け、隣に寝そべる影に話しかけた。
「お願いだから、寝てる時にはやめてくれ。
後始末が面倒くさいんだから」
下半身に広がる冷たい感触に顔をしかめながら文句をつけた。
薄暗い明かりの中、となりに寝そべるのは十二歳くらいの童女。滑らかで艶のある黒髪は腰くらいまである。広がった黒髪に肘をつき、十二歳の童女とは思えない引き込まれるような微笑みを浮かべ、藍色の瞳は僕を見ている。未成熟な体を絹のように滑らかで薄く透けるような下着で覆っている。袖から伸びる腕は小麦色をしている。それは見た目からは「想像がつかないくらい」なめらかでしっとりして、アタマの芯が痺れるような触れごこちなことはわかっている。だからこそ、自制を自分に言い聞かせ急いで視線をそらす。
「おい、やめてくれよ。
僕はそんな趣味はないって言ってるだろ」
「うふふ、
そんな事言ってもわかってるけどね」
視野の端に映るその姿が淡い光に包まれ十四歳くらいの姿に変わり、さらに体に柔らかさと丸みを加えていく。童女が少女となりその変化は止まらない。胴は細くくびれていき、腰は大きく丸みを増していく。胸も豊かさを増し、身長も見合う高さに伸びる。十八歳を越えたぐらいで止まり問いかけてきた。
「これでいい?」
「まあ」
僕は見つめないよう視線に注意して部屋の明かりをつけた。
「しょうがないじゃない。お
美味しくいただきました」
彼女は深みのあるアルトの声で拗ねたようにつぶやく。口を小さく尖らせて、引き込まれる藍色の瞳で視線を逸らしている僕の目を覗き込む。その顔もまた僕の好みなんだ。だが、ここで惑わされちゃいけない。どんなに好みの姿をしていても彼女は人間じゃない。
「あー面倒臭いんだよ。後始末が!」
僕は無理やり会話を打ち切り、シャワーを浴びると言って立ち上がった。
下着も替えてさっぱりした気分でリビングに戻ると。テーブルに朝飯が用意されている。魅力的な女と暮らしてご飯の面倒まで見てもらえる。この生活に満足していないなんて考えられないと思う。だが、彼女は
彼女に出会ってから、半年ほど経つ。最初は狭い貧乏アパートに彼女と暮らしていた。気がついたら、いつのまにか物書きとして暮らしている。誇張じゃなく売れっ子になっていた。
実はこれには
いいことばかりのようだが、うまく自分を抑えないと大変なことになる。かつて、欲望の趣くまま誘惑に乗ったことがあったが、衰弱死一歩手前で入院することになって酷い目にあった。油断してると、裸に白シャツとか裸エプロンでうろついたりする。とにかく僕の嗜好性は筒抜けなので…… 我慢は辛い。
「じゃあ。僕は仕事するから」
拗ねっぽい表情を浮かべる彼女から視線をはずし、隣の書斎に移動する。仕事中は邪魔をしない契約になっていて、安心して目の前のことに集中できる。創作に打ち込む間だけが僕の安らぎの時間だ。
彼女は僕を気に入っているらしい。そして、もう僕は彼女から離れられない。創作の喜びを知ってしまった。だが、僕の命もいつまで持つか、彼女は『そんな事ないよー』と笑ってるけど、悪魔の言う事だ。信じられるわけない。
僕の命が尽きるのが先か、彼女が飽きるのが先か。後者だったら、才能が枯れ果てる。いずれ決着がつくだろう……
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