04.空飛ぶ騎士
「ご、ごめんなさいドナール様――あの、重く、ないですか……?」
「ハッハッハ! 何の何の! アーシュ殿とホワイト君を乗せる位、軽いものですぞ!」
「ア、アーシュさん。その……しっかり掴まるのはいいんですが、もう少し体を離して……その、今の体勢だと胸が……」
会話だけ聞けばどこかいかがわしい状況にも思えてしまうが、当の俺達は真剣そのものだった。
今、俺達は一歩間違えれば命を落としかねない、危険な状況にあるのだ。と言うのも――。
「しかしホワイト君、よくこんな手段を思いついたな。私は、アンデッド共とどうやって戦うかばかりを考えていたぞ」
「そうね、私もまさかこんな方法で無駄な戦いを回避できるだなんて、思ってもみなかったわ――まさか、飛んで迂回するだなんて……」
――端的に状況を説明すると、俺達は今、ドナールの大盾に乗って飛んでいた。
勿論、ドナールの大盾が実は空飛ぶ魔法の盾だった等と言う素敵な話ではない。
厳密には「飛んでいる」のではなく「浮いている」状態であるし、浮いているのもアーシュの「
……更に言えば、「大盾に乗って飛んでいる」というのも少々
正確には大盾の上に四つん這いになったドナールの背中に俺とアーシュが跨っている状態だった。
傍から見れば、「いい歳してお馬さんごっこに興じる三人」にしか見えないだろう。
何故、見ようによっては何ともみっともない、こんな格好をしているかと言えば……全ては大量のアンデッド達との戦いを避ける為だった。
アンデッド達の大半を占める
だから、この大通路のやたらと高い天井近くまで、アーシュの「
だがそれだけだと、そもそも浮遊している
そこでまずは、
しかし、いくらドナールの大盾が巨大だとはいえ、俺達三人がすっぽり隠れられる訳ではない。そこで「大盾を構えたドナールの後ろに俺とアーシュが隠れる」状態を実現する為に、この「ドナールに跨る俺とアーシュ」という体勢が出来上がった訳だ。
次に、
元々、
空中に逃れた後、アーシュが「
何せ、アーシュの「
だが、そこのところもしっかりと織り込み済みだ。
「
それは、この魔法で浮き上がった人や物はちょっとした力で動かす事が出来るというものだ。
水に浮かんでいる物や濡れた氷の上にある物を軽い力で動かせる、あの状態を思い浮かべてもらえば分かりやすいだろう。この特徴を利用すれば、ある程度は宙を移動する事が出来る訳だ。
ここで活躍するのが、俺の相棒とも言える特殊ワイヤーと左手の手甲に仕込んだ小型弓、そして残された七本の矢の一つ、「
特殊ワイヤーと同じく、ドワーフの名工の手による「アンカー」は先端に特殊な仕組みが施された矢で、その特徴は固い壁や岩にも容易に突き刺さる上になかなか抜けないというものだ。
その名の通り、船の
この「アンカー」は、特殊ワイヤーと連結出来るようになっている。
こいつを弓で打ち出して壁や塀の高い所に突き刺せば、とっかかりの無い壁であってもワイヤーを辿ってよじ登る事が出来るって寸法だ。
今回はこれを迷宮の天井のやや離れた場所に打ち込んで、あとはワイヤー収納ボックス内のバネの力と俺の腕力とでワイヤーを手繰り寄せて移動する。
小型弓の射程やワイヤーの長さを考えれば、一回で通路を抜け切る事は出来ないだろう。何度か同じ作業を繰り返す必要がある。
「アンカー」は一本しかなかったが、幸いにしてこいつはちょっとしたコツで壁から引き抜く事が出来るので、ある程度は再利用が可能だ。
最初の一射こそ緊張したが……俺の目論見通り「アンカー」は迷宮の天井に見事に突き刺さってくれて、簡単には抜けそうになかった。後はワイヤーを辿っていけばいい。
三人一緒にしっかりと移動する為、俺はドナールを足で挟み込むようにして跨った上で、アーシュにはしっかりと俺の体に掴まってもらっている。
――のだが。その、なんというか。ゆったりとした魔術師のローブでも隠し切れないアーシュの豊満な胸が、思いっきり背中に当たっているというか……。
普段の俺ならば「硬い鎧とか着てなくてラッキー!」等と内心で喜ぶ所なのだが、生き残るのに必死な今の状況下では、注意力が散漫になる元でしかなかった。
何せ、ドナールが大盾で足元を守ってくれているとは言え、それも絶対安全ではないのだ。
更に言えば、ドナールの大盾で攻撃を防いだ時に生じる衝撃も、宙を浮いている俺達にとってはバランスを崩しかねない要素だ。今も、矢やら投擲された剣やらが「ガツン!」と派手な音を立てて次々に大盾にぶつかってきているが、その度に俺達はお互いの体を捻るなどして、バランスをとる必要があった。
見た目の間抜けさに反して、中々に命懸けの状態なのだ。
アーシュの「
対して、「
とは言え、少しでもアーシュの魔力は温存しておきたいところだ。少しでも早くこの大通路を抜けるべく、俺はワイヤーを手繰る手に力を籠めた。
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