第44話 まともに報告受けられません

『バランス感覚』……物理的な平衡感覚ではなく、物事をヒイキなく公平に裁ける能力のこと。組織に所属していると、否応なく争いごとに巻き込まれることがある。そんな時にこのスキルがないと、協調性がない一匹狼になったり、空気が読めないと窓際に追いやられたり、ゴマをすりすぎると軽蔑されたりする。社会人に必須の能力。「私と仕事、どっちを取るの?」と言われることも、しばしば。恋に関してバランス能力を過信すると、泥沼からの包丁エンドが待っている。怖い怖い。




「あら、魔王様。元気~?」


 人に姿を変え潜んでいたサキュバスのアスネロスが戻ってきた。

 相変わらず熟れた体を見せつけるようにクネらせる。

 普通に立てんのか、普通に。


「お前は確か、人の町に潜伏していたのでは?」

「そうなんだけど~。勇者にバレちゃった」


 そう言ってウィンクしながら舌を出す。

 てへぺろ……じゃない。

 色目を使うな。

 さっきから隣にいるグローシアの機嫌が悪い。

 胸を押しつけながら腕を掴んでいる。


「報告が終わったのなら、もう下がってはいかが?」


 グローシアはアスネロスを睨みながら言う。

 おい、ケンカをするな。


「あらあら、魔王様も大変ねえ~。隣にうるさい牝牛がいると」

「めっ……! なんですってー!!」


 痛たたたったた!!

 腕にツメが食い込んでおる!


「我の前で争うんじゃない!」

「魔王様はどっちの味方ですか!? ワタクシですよね!?」

「あら、魔王様は私がタイプよね?」


 おい、待て。

 なんだその正解のない質問は?

 いつの間にそんな話になった?

 ど、どうする?


「「どっち?」」

「たわけ!! そんなこと、人間を滅ぼしてからの話だ!」


 私の一喝で、その場は事なきを得た。

 スマン人間よ。

 比較的どうでもいい問題のダシにした。



―――――――――――――――――――――――――

魔王様への意見具申コーナー

Q 魔王様は年増より若い方が好みよね~? アスネロスより


A いや、グローシアにせよ、お前にせよ、1000歳超えておろうが。70年くらいの差など、微差だ、微差。そんなことより、たまには露出の少ない服を着ろ! 魔王城の風紀が乱れるだろうが。

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