第39話 まともに征服できません

『瘴気』……魔族が生まれつき身に纏っているオーラのようなもの。抵抗力の弱い者は近くにいるだけで、気を失ったり病気になったりする。消臭剤でも消臭は不可。人間がこれを身につけようとすると、魔界を見るぐらいの狂気がないと無理。魔族は標準装備されているが、オンオフは不可能。故に悲しみを背負うことがあるかもしれない。




 今日は他の魔王の城を攻めている。人間は魔族が一枚岩だと思っているかもしれないが、そんなことは無い。隙あれば下剋上を狙う者だらけ。心の休まる暇もない。


「あともう少しで城が落ちそうです!」

「そうか。分かった」


 正直、同族を攻めるのは忍びない。

 できることなら話し合いで済ませたいが、応じてくれる者はまずいない。

 何故、魔族には脳筋しかいないのだろうか。


 そんなことを考えながら、ある場所に目をやると綺麗な花が咲いている。


「こんな所に花が……」


 暗黒大陸にまだ花が咲いていたとは。

 しかも、母上が生前気に入っておられたナケナシソウの花ではないか。


『お花はね。心を鎮めてくれるのよ』


 そんなことを言っておられたなあ。

 ああ、心が安らぐ。

 花には人を優しくする何かがあるのだな。

 そうだ。いくつか摘んで帰って、母上の墓前に飾ろう。


 そう思って近づいた瞬間、花はドス黒くなって腐って散った。

 さっきまで見ていた安らぎは、今はもう無い。

 私には安らぎを享受する資格も無いらしい。


「うおおおおお!!」

「殺せーーーーー!!!」


 耳には殺伐とした戦いの音が聞こえる。

 望んでもいない戦火がそこにある。


「魔王様! 城の攻略が完了しました! 残った敵は如何いたしますか?」

「一人残らず撃滅せよ」

「は、はい!」


 この時、私はとても怒っていたと思う。

 すまない母上。墓前に花、添えられなんだ。




―――――――――――――――――――――

魔王様への意見具申コーナー

Q 魔王様。いい加減30倍くらいに引き伸ばした母君の遺影にすがるのはお止めください。 メイド長アリサより


A では抱き枕に母上の遺影を張りつけてくれ。内密にな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る