第37話 まともに約束できません

『契約』……物の売買など、何かを約束すること。人間の世界では書類などを用いて一般的に行われるが、悪魔の世界では命がけだったりする。うかつに契約すると魂が縛られたり、未来永劫従属させられたりする。だから『僕と契約してよ』と言われても、気軽に契約してはダメだ。うっかり契約すると人生の墓場に一直線である。人間の契約にも結婚という名の墓場がある。




 父上が残したもの……それは今の私を悩ませるものが多い。その一つが、今私の目の前にいる。


「魔王様。ご機嫌麗しゅう」


 そう言ってドレスをたくし上げ、女性は深々とお辞儀をする。

 彼女の名前はグローシア。

 一応、私の許嫁である。

 父上が勝手に決めたのだが。


「ワタクシ、魔王様に会える日を指折り数えていましたわ」


 上目づかいに言いながら胸を押しつけてくる。

 指折りと言っているが、ほぼ毎日来る。

 胸もデカイが態度もデカイ。


 私は彼女が苦手だ。

 はて? なぜ苦手なのだろうか?

 初めて出会ったのは、確か父上に連れられてきた時だから――




「あなたが王子様?」


 そうそう。あの時はまだ幼くて、あどけない感じの女の子であった。

 屈託ない笑顔を振りまいて、年相応という感じだったな。


「ワタクシ、頑張って良い女性になります! その時はワタクシと結婚してくださいますか?」


 これも年相応の宣言で、まあその内忘れるだろうと思って適当に返事をしたのだった。

 そしたら、急に自分の親指をガリっと噛んで――


「それではワタクシと血の契約を!!」

「ヒイイイイイィィッッ!!?」


 ああ、そうだ。思い出した。

 あの一件以来、私は血が苦手になったんだった。

 恐ろしい思い出だ。




 改めてグローシアの顔を見る。


「如何なさいましたか、魔王様?」

「お前は罪深い女だな」

「まあ! そんなことを言われては、ワタクシ照れてしまいますわ!」


 顔を真っ赤にして勝手に照れ出した。

 いや、本当に罪深い女だ。




――――――――――――――――――――――

魔王様への意見具申コーナー

Q 魔王様に今度お料理を作って差し上げたいのですが、よろしいでしょうか? あなたのグローシア


A 謹んで遠慮いたします。

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