第36話 まともに管理できません

『統治』……自分の領土を治め、管理すること。一国一城の主ともなると内政能力が求められる。一武将と領主の違いは、ここにある。武力だけでなく知能も必要。もちろん1人だけでは統治できないから、優秀な部下も必要。財政が自分の好きにできるからといって、趣味にお金を突っ込んではならない。茶器を買い漁るなどもっての外である。





 魔王は玉座に踏ん反り返っていれば良い、というものでもない。常に城の財政状況には目を光らせ、部下が不正を働かないか見張っていなければならない。


 だが――


「何だ!? この赤字は!?」


 久しぶりに財政状況を確認すると、ものの見事な赤字であった。

 一体、責任者は今まで何をしておったのだ!


「魔王軍の人数が多すぎるのではないか? 爺よ」


 父上の代より、魔王軍はアホみたいに多い。

 人件費が財政を圧迫しているのではないか?


「いえ、先代魔王様の時はトントンでした」


 むう……そうか?

 では原因は他の所か?


「開発費が以前より増えているとか」

「いえ、魔王様の代になり、むしろ減っております」


 キッパリと言われた。

 それはそうだろう。

 私は争いごとの兵器にお金をかけたくない。


「では式典などの諸費用は?」

「ここ最近で一番かかったのは、魔王様の母君のお葬式ですな」


 母上の葬式は、良いんだ。

 派手で。

 遺影も30倍くらいに引き伸ばしたの使ったから。


「では一体なんだ!? 何が原因で我が魔王城の財政がひっ迫しておるのだ!?」

「主にケルベロスのエサ代ですな」


 …………。

 私は静かに玉座に座りなおし、足を組んだ。

 大事なことだ。落ち着いて話をしよう。


「さて爺よ。我々は今、何の話をしていたかな?」

「それで押し通すおつもりですかな?」


 いや、だって……。

 心のオアシスだから。

 そりゃ、ちょっと豪華なお肉とかあげてるけど。


「上に立つ者がそれでは、示しがつきませんぞ?」


 爺が顔を近づけてくる。

 怖い顔、近づけないでください。


「わかった……一日一食だけカリカリに変えてくれ」

「カリカリですか?」

「ああ、高級カリカリだ……」


 それが譲歩の限界だ。





―――――――――――――――――――――

魔王様への意見具申コーナー

Q 魔王様はお心が優しゅうございますな。爺個人としては、大変嬉しゅうございます。


A まあ、優しさだけでは乗り切れないからな。裏と表の顔を上手に使い分けるほかない。父上はよくやっておられたよ。まったく……。

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