第32話 まともに発散できません

『隠密』……自分の姿や気配を消して動くこと。あるいは、それを行う者。英語で言うところのスニ―キング。でもダンボールは使えない。ハチの巣にされるのが目に見えているから。昔から潜入任務に当たる者は、このスキルが無ければ話にならなかった。そのため過酷な訓練を行ったとされる。有名なのが成長しやすい草の種をまいて毎日ジャンプする訓練。絶対、途中で草の成長にジャンプ力が追いつかない。嘘か真か知らないが、世の中にはスニーカーを履いた忍者がいるらしい。音を立てにくいので理には叶っている。




 美人コンテスト終了後、俺たちはそのまま港町に泊まることになった。

 港町。港町といえば――


「ここの温泉デカイなー!」


 海の見える温泉がある。オーシャンビューですよ! 


「いい湯ですね、勇者様」


 クレアは湯につかりながら言った。

 うん。君、普通に入ってるけど、やっぱり男なのね。

 いやまあ、本人が女ですと言ったことは無いんだけどさ。


「さて、と……」


 俺は温泉から上がると、男湯と女湯をへだて衝立ついたてに忍び寄った。

 隣には今日、美人コンテストに出たお姉ちゃんたちが一杯いる。

 今こそスキル『隠密』を使う時!


「何をされているんですか? 勇者殿?」


 すかさずクラウスのツッコミが入る。

 この優等生めが!


「目の保養だ!」


 俺はキッパリと言い切った。

 こいつを言い負かさないとパラダイスにはたどり着けない。


「まさか、ノゾキをするおつもりですか?」

「いいかクラウス、よく聞け! 今の俺には恋ができない!」

「ほう」

「もし人を好きになったとしても、今の俺には抱きしめることができない! 大ケガさせちゃうから!」


 自分の気持ちを赤裸々に語る。


「そんな俺が日々闘いながらストレスを溜めている。これは非常に良くない!」

「……しかし勇者殿。今日あなたは女性の姿になったのではありませんか?」

「違う、そうじゃない! 自分のを見ても楽しくないの!」


 ここからは趣味の問題。だが譲れないものがある。


「いいか! 人のパンツをもろに見ても面白くもなんともないだろ!」

「はあ」

「見えるか、見えないか。その境目に人はロマンを感じるのだ! そう、チラリズムだ!」

「もう何か、理論が破綻していますが……」

「理屈じゃない! 考えるな! 感じろ!」


 もはや議論していない気もするが、いいのだ。

 男の魂の問題なのだ。


「分かったな? もう止めてくれるな」

「分かりました。そこまでの覚悟なら止めません」


 やった! 遂に言い負かした。俺、頑張った!

 後はパラダイスに行くだけだ!


「いざ!」


 スキル『隠密』を発動!

 衝立の向こう側をのぞく、と――


 向こう側の全員に睨まれた。

 そうッスね! 騒ぎすぎたッスね!

 これじゃ隠密もクソもないですね!

 恥を忍んで討論したんですけど。


 しばらくの間、風呂桶が乱舞しました。




―――――――――――――――――――――

女神への質問コーナー

Q 女神さまのスリーサイズを教えてください。


A 随分と直球の質問ですね。ストレスが溜まっているのですか? 女神はとっても心配です。スリーサイズは無事戻ってこれたら教えます!

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