第29話 まともに身の上聞けません

『盗む』……相手から金品を掠め取ること。このスキルを駆使して財政難を乗り切り、見事祖国を奪還した王子がいたそうな。でも盗みは犯罪です。盗んでも怒られないのはハートくらい。それだって相手が既婚者だったりすると『この泥棒猫!』と罵られたあげく、裁判沙汰泥沼である。奴はとんでもないものを盗んで行きました。盗まれた側はヤキモキしたり、涙を流したりする。




 買い物を終えた後、クラウスは情報を集めに、クレアは宿を取りに行ってしまった。俺とメイシャは引き続き町を散策していた。相変わらず人通りが多い。一生懸命、ケガをさせないように避けながら歩く。


 しばらく歩いていたら1人の男とすれ違いざま、ぶつかりそうになる。危ないなあ。


「おっと、ゴメンよ!」


 そう言って男は去ろうとする。

 しかし次の瞬間、メイシャは男の手をガッチリと掴んだ。


「待ちな! 今、懐から抜いたものを出していきな!」

「ちっ!」


 男の手には俺の財布が握られていた。おお、いつの間に。

 男は悪態をついた後、足早に去って行った。


「よく気付いたな」

「まあ、年季が違うからねえ」


 メイシャは小さな声で言った。


「アタシだって初めからトレジャーハンターやってた訳じゃないからさ」


「盗みもやってたってこと?」

「ああ。もっと小さい頃はね……」


 メイシャはゆっくりと話し出す。


「アタシんちは貧しい家でね。弟妹だって7人もいるし、食うに困る毎日だったよ」

「7人!? 多いな……」


 ちなみに俺は1人っ子だ。弟妹がたくさんいるってのは、どんな感じだろうな。


「かと言って、小さい内はまともな稼ぎ先だってありゃしない。悪いと思っても、やるしかなかった」


 困窮する家計、頑張って支える女の子。


「でも……ある時、妹に言われてね」

「何て?」

「『私たちの幸せのためにお姉ちゃんが不幸になるのは嫌だ』って」

「うわあ……良くできた妹さんで」


 お姉ちゃんは弟妹たちのために。弟妹たちはお姉ちゃんのために。優しい世界だなあ。


「それで足を洗ってトレジャーハンターに――って、なに泣いてんだい勇者!?」

「だって……いい話だから……」


 ホント幸せになってほしい。

 そう思う。

 だから正しい目利きも身につけてほしい。


「俺もメイシャみたいなお姉ちゃん欲しかった」

「え!?」


 つい口に出してしまった。




――――――――――――――――――――

女神への質問コーナー

Q 女神さまは兄弟とか、いますか?


A いますよ。私は上から32番目の女の子です。神はとにかく血縁者が多くて困っちゃいます。知らない間に父親が愛人を作っていたり、子供をこしらえてたりで裁判が多いです。係争中の案件は57件に上ります。あなたは恋多き人ですか? 背中を刺されることが無いか、女神はとっても心配です。

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