第28話 まともに交渉できません

『値切り』……売られている品物の値段を交渉によって安くすること。基本的に店頭価格と言うのは少し高めに設定されていることがほとんどである。特に観光地はボッタクリに近い値段設定がされていることがある。ゲームだとカードを持っているだけで半額にしてくれたりするが現実は甘くない。熾烈な交渉を経なければ安く手に入れられない。ちなみに筆者は値引き交渉を一度たりともしたことが無い。ガチで交渉する友人の横で勝手にハラハラしていていた記憶しかない。でも、私は損はしていない。私が値引きしなかったことで、お店やお店の人の家族、はたまた巡り巡って地球の裏の貧しい人たちが潤う。そう思うことにしている。優しい気持ちになれる。





 無事船は新しい大陸にたどり着いた。船から降りた俺たちは、物品調達のため港町で買い物をすることになった。


「流石に賑わっているな」


 町は人や物が溢れ、活気も凄まじい。俺は立ち並ぶ店の中から薬屋を見つけるとクラウスに声をかけた。


「俺が本場の交渉術を見せてやるぜ!」

「ふ……期待してますよ」


 俺は店頭まで近づき店のオッチャンに尋ねる。


「これ、いくら?」

「そりゃ銀貨3枚だな」


 相手が値段を提示してきたら交渉の始まりだ。


 交渉術その1 優しくお願いする


「もう少し安くなりませんか?」

「こっちも商売でやってんだ! 嫌だったら余所で買いな!」


 相手に拒否されたら方針を転換します。


 交渉術その2 泣き落とししてみる


「これを買えないと、すっごく困っちゃうんですよ……うう……」

「そんなこと言われたって、こっちが困っちまう」


 相手が同情してくれなかったら、次の作戦に移ります。


 交渉術その3 権力をチラつかせる


「ホラホラ! これ、女神のペンダント! 俺、勇者だよ?」

「いくら勇者様だからって、金を払ってもらわねえと困っちまいますよ」


 これでも拒否されたら嫌がらせを始めます。


 交渉術その4 不安を煽る


「あ~あ。ここで薬が買えなかったせいで、傷ついて倒れちゃうかもな~。世界が救えないな~」

「そ、そんなことを言われても……」


 ここまできてもハッキリした返事がもらえない場合は覚悟を決めましょう。


 交渉術その5 実力行使


「とっとと値引きしろって言ってんだろ!!!」

「ヒ、ヒイイィッ!? 分かりました!! もう、タダでいいです!」


 無事交渉終了! やったね!

 俺はホクホク顔でクラウスに話しかける。


「どうだ! 俺の交渉術は!」

「……0点です」


 クラウス先生からぶっちぎりの赤点を頂いた。





――――――――――――――――――――

女神への質問コーナー

Q 女神のペンダントを出してもタダにはならないんですね。


A 権力の濫用はいけませんよ? 勇者が特権を濫用したせいで潰れたお店やカジノが多いと聞きます。権力は用法・用量を守って正しく使ってくださいね? 女神は心配でたまりません。

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