第26話 まともに返事できません

『高速思考』……脳内における思考を高速化することにより、ほんのわずかな時間で結論を導き出せる能力。どんな難しい問題でも一瞬で答えたように見えるため、他人から尊敬される。よくスポーツ漫画とかで使われる。これのおかげで、ピッチャーが投球してからキャッチャーミットにボールが納まるまで10分くらい考えられる。『あいつの球種はストレートとフォーク。一体どっちを投げてくるんだ? ここは男らしくストレート……いや、裏をかいてフォークか? あるいは裏の裏をかいて……』とかメチャクチャ長くなる。ちなみに頭の悪い人間がこのスキルを使っても結果があまり変わらない。馬鹿の考え休むに似たり。




「勇者様、……好きですよ……」


 クレアのこの言葉を聞いた時、俺の思考はフリーズするどころか猛スピードで回転しだしたのである。



――俺の脳内――


俺:普通派「はい、第一回脳内会議を始めます。議題はクレアに告白されたことについて」

俺:人は見た目派「人は見た目だって! それが重要!」

俺:人は中身派「愚かな。人は中身が大切に決まってます!」

俺:属性が大事派「何言ってんの? 萌える属性を持ってるかでしょ、常考」

俺:女いらない派「女なんて下らねえ! あいつら着飾ることしか考えてねえぞ?」


 議会は紛糾する。

 会議は踊る、されど進まず。


俺:人はビジュアル派「なんだかんだ言って、お前ら最後は見た目で決めるじゃないか!」

俺:人は性格派「そんなことありません! 優しさにこそ惹かれるものです!」

俺:普通派「おい、落ち着け! 取っ組み合うな!」


 ビジュアル派と性格派が取っ組み合いのケンカを始める。


俺:マニア派「第一、今時萌えを意識しないなんてファンが許しませんぞ?」

俺:女嫌い派「なんでもいいよ。どうせ女なんて全部一緒だって!」

俺:普通派「分かった! お前ら落ち着け!」


 普通派の一喝で議会に静寂が戻る。


俺:普通派「いいか? 落ち着いて1つずつ整理していくぞ?」


 冷静に考えていく。


俺:普通派「まず見た目だ。クレアはどうだ?」

俺:人は見た目派「まあ、可愛いな。文句はない」

俺:普通派「次、性格は?」

俺:人は中身派「基本的に穏やかで優しいです。健気ですし、好感が持てます」

俺:普通派「そして属性はどうだ?」

俺:属性が大事派「ケモ耳の男の娘。ヨダレが止まりませんなあ」

俺:普通派「そう。つまりクレアは――」

俺:女いらない派「男だ。心配いらねえ」


 ……え?


俺:普通派以外「「「「なんだ。なんの問題もないじゃないか!!!」」」」


俺:普通派「問題だらけだーーーーーーーっ!!!!!」


 俺は叫んでいた。

 この間――わずか0,02秒




――現実――


「勇者様、生魚好きですよね」

「問題だらけだーーーーーーーっ!!!!!」



 船上はしばらくの間、沈黙に包まれた。

 気持ちのいい潮風が吹き抜けていく。

 今日も大海原は快晴だった。



―――――――――――――――――

女神への質問コーナー

Q まともな恋がしたい。


A 応援してます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る