第25話 まともに出航できません

『エレメンタルマスター』……自然を司る精霊の力を行使できるスキル。精霊は、かなり気ままで自分勝手なところがあるため、精霊に愛されていないと言うことを聞いてくれなかったりする。水・火・風・地の精霊に愛されていると、この称号がもらえる。この世には大変多くの精霊が存在しており、マスターへの道のりは遠く険しい。別にジムとかバッチとかあるわけではない。単純に精霊に愛されやすい体質かどうかで決まるらしい。精霊との契約は通常、指輪を用いて交わされることが多く、その精霊の気に入った指輪をプレゼントしないと怒られる。『どうせ私はキープなのね!』と拗ねられてしまう。実に面倒くさい。もしうまく契約できたら高らかに宣言しても良い。精霊、ゲットだぜ!




 クラウスの助言に従ってで俺たちは近くの港街まで来ていた。ここから船に乗って別の大陸を目指したいのだが――


「なんじゃ!? この嵐は!?」

「飛ばされそうです、勇者様!」

「とんでもないねえ、これは」

「おかしいですね……。ここは本来こんな気候ではないはずですが」


 とりあえず雨風から逃れるため、俺たちは建物の中に避難した。

 全身びしょ濡れである。


「少し情報を集めてきます」


 クラウスは町の人に話を聞きに行った。



 30分後、事情を理解したクラウスから説明を受けた。


「本来この町は温暖で穏やかな気候なのですが、数ヶ月前からこんな調子だそうです」

「何故なんでしょうか?」

「地元の人間は魔王の仕業だと言っていますが」

「このままだと漁に出れなくて困るだろ」


 何とかしないと町の人も困るし、俺たちの旅も進まない。

 俺は一つ提案してみることにした。


「俺のスキルに『エレメンタルマスター』ってのがあるんだけどさ。何か使えるかな?」

「精霊の力ですか……嵐を止められるかもしれませんね」

「いっちょ、やってみたらどうだい勇者?」


 では試してみるか……。

 俺は外に出て、風の精霊シルフを呼んでみる。

 嵐の中なんで早く出てきてくださいよ。


「シルフ!」


 そう叫ぶと目の前に風の渦が発生し、シルフが姿を現す。羽が生えた子供のような格好をしている。精霊というか妖精みたいな感じだ。


『何か呼んだ? お兄さん』


 羽をパタつかせながら無邪気な声で尋ねてくる。


「あ、嵐がトンデモナイので、何か、何とかできる?」


 俺は嵐に飛ばされそうになりながらお願いする。

 できるだけ迅速にお願いしたい。


『お安い御用さ!』


 シルフはそう言うと縦方向に風を巻き上げていく。先ほどまで吹きつけていた風は遥か上方に持って行かれ、上空に立ち込めていた暗雲を薙ぎ払った。

 太陽の暖かい光が射し込む。


「おお! すげーな!」

『これでいいでしょ?』

「ああ、助かったよ」

『じゃ、そーゆーことでー』


 シルフはニッコリと笑うと姿を消し、どこかへと立ち去ってしまった。

 いやー、精霊凄いわ! 大変有能!



 次の日、無事平穏が戻った港であったが――


「こう風が無いんじゃ、船は出せねえよ」


 船長にそう言われてしまった。

 嵐は去ったが、今度は逆に風がなくなってしまった。船は帆船だから風がないとロクに動かない。


「もう一回、シルフにお願いしてみるか」


 俺はもう一度呼び出すことにした。


「シルフ!」

『只今、旅に出ております。御用の方は後でおかけ直しください』

「留守番電話!?」


 何か留守番電話みたいのに繋がった。

 結局、船は俺が風魔法を連打して進むことになった。




――――――――――――――――

女神への質問コーナー

Q エレメンタルマスターなのに精霊が留守で動いてくれません。どうしたらいいですか?


A 精霊の労働条件は契約時に決めることが多いです。今回は私がスキルを付与してしまったので細かいことは分からないと思いますが、あまり連続では動いてくれないと思います。そこは人間とあまり変わりません。注意しましょう。精霊と仲良くしてくださいね?

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