第23話 まともに弁明できません

『勇者の特権』……世界を救う勇者にのみ許された超法規的措置全般を指す。この特権の効果は凄まじく、某ご隠居の印籠以上の権威を発揮する。具体的には、悪人を個人的に成敗しても罪に問われない、道端に落ちているお金や宝を自分のものにできる、勝手に人の家に入って物を取っても許される、困っている人の足元を見て物品を要求してもいい、必要ならば敵地を破壊・放火しても構わないなど枚挙にいとまがない。やられた方は『やんぬるかな』という気持ちになる。現実にこれを行おうとすると、殺人・窃盗・強盗・詐欺・脅迫・家宅侵入・器物破損・放火など凶悪犯も真っ青な罪状を手に入れることができる。ファンタジーにおいて法律が意味をなさない原因の一つである。




 賢人が住むという場所、その最寄りの村にたどり着いた。


「あれ? 誰もいませんね」


 クレアの言う通り、村はもぬけの殻であった。また事件の香りがする。


「とりあえず手分けをして探してみよう」


 俺たちは別々に分かれて村人がいないか探してみた。

 だが――


「誰もいないねえ」

「でも、つい最近までいたような感じですよ?」


 村の様子は荒れているわけでもなし、朝食を取った後が残っているくらいだ。人だけが忽然と姿を消してしまったかのようである。神隠しか?


「どうしましょうか?」

「何かあってからじゃ遅いからなあ」


 俺は非常手段に出ることにした。


「仕方がない。とにかく村の中を漁あさって、手掛かりがないか調べるんだ!」

「本当に非常手段だねえ」


 悪いとは思いながらも俺たちは民家の中を調べたり、牛舎を調べたり、畑をひっくり返したりしたが手掛かりは何も得られなかった。


「一体、村人はどこに行ってしまったんだ?」


 3人で額を集め相談していると、村の入り口から村人がぞろぞろと帰ってきた。そして俺たちに気づくや否や近寄ってくる。


「おや? あなた方は?」

「えっと、俺たちはこの辺に住む賢人を訪ねに来ました」

「ああ、それは丁度良い時に来ましたな! あの方はたった今、旅から帰ってこられて我々も全員で出迎えに行っていたのですよ!」


 村人は笑顔で言う。

 なんだ、それ? 事件かと思ったが、ただの取り越し苦労か……。


「まあ、お茶でも飲んで……」

「た、大変だーっ!! 家や畑が荒らされているぞーっ!!」


 先に家に戻った村人が叫びだす。

 ああ、そうですね。


「な、なんと……何か知りませんかお客人?」

「いえ。俺たちが来た時には、既に……」


 多分、俺はどうしようもなく目が泳いでいたと思う。




――――――――――――――――――――――――――――――――

女神への質問コーナー

Q 俺は罪も無い人の家や畑を荒らしてしまいました。懺悔した方がいいでしょうか?


A では私が聞きましょう。罪の告白をしてください。って、もう言ってますね。悪気が無かったとしても謝った方がいいと思います。誠意をもって村の人に懺悔しましょう。ちゃんと素直になれますか? 女神はとっても心配です。

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