第20話 まともに解決できません

『ステータス異常無効』……バッドステータスにならなくなるスキル。これがあれば、あらゆるステータス異常にならないため、安定した戦いができる。熟練の冒険者でも不意打ちからのステータス異常でやられる可能性は高いので重宝する。しかしイライラが解消されたり、仏のような寛容性が持てるわけではない。あくまで相手からの干渉を無効化するだけなので、精神的な修業は別に必要なのかもしれない。




 夜の襲撃を受けた俺たちは、生け捕りにした町の人から話を聞くことにした。

 しかし――


「申し訳ないが、何も覚えていないんだ」


 どの人間に聞いても、そういった答えしか返ってこなかった。


「どういうことだ?」

「ひょっとしたら、操られていただけかもしれませんね」


 クレアの言うように操られていたとしたら、元凶がいるはずだ。俺は町の人にできる限り覚えていることはないか聞いてみた。


「そうですね……。教会でお祈りしてから、記憶があいまいで……」


 どうも教会が怪しい。


 翌日、俺たちはこの町にある教会を訪れた。首都の教会だけあってデカイ。敷地だけでも下手なアミューズメントパークより広いんじゃないか?


「でけえ教会だな」

「女神オーヴァプロを信仰する女神教は、大陸中に信者がいますからね。巡礼に来た信者が寝泊まりできる部屋があるんですよ」


 あの女神、そんなに信仰心を集めていたのか……。ちょっと過保護すぎる気もするが。


「アタシは神より人を信じたいけどねえ」


 メイシャの言うことも正しい。人事を尽くして天命を待ったほうがいいだろう。というわけで教会に突撃だ。


「お邪魔しまーす!」


 挨拶をして中に入るが、人はいない。入口からまっすぐ歩くと広いスペースに出た。奥に祭壇があるところを見ると、ここが礼拝堂だろうか。規則正しく並べられた長椅子の間を通る。


「いつもこんなに静かなのか?」

「いえ……少なくとも司教やシスターがいるはずですが」


 クレアは首を傾げる。

 俺は部屋の奥をジッと凝視した。何か見える。


「目つき悪いよ勇者。なんか見つかったかい?」

「隠し通路……かな?」


 『真実の目』で階段が見える。地下への隠し階段か。こういうのは大概、仕掛けがあるものだが……。


「いつも通り、力技で行きたいと思います」

「あんた、それ以外の方法取ったことないだろ?」

「その内、弁償しろとか言われそうですね」


 祭壇前の床を破壊すると、地下への階段が見つかる。中は明かりがついているようで、歩くには困らない。奥へ進むと人影が見える。


「あら、誰かしら?」


 こちらに気づいたのか、シスター服に身を包んだソレは尋ねてくる。


「シスターさん……ですか?」

「いや、もっと性質が悪そうだぞ」


 俺には相手の正体が見えている。妖艶な女悪魔。俗に言う、サキュバスであろうか。


「人間じゃないな。正体を現せ!」

「あらあら、女神の加護を受けた勇者のお出ましね」


 微笑みながらそう言うと、人間の女性から女悪魔へと姿を変える。角と尻尾を生やした色気のある悪魔だ。こんな時でもなければじっくりお話を伺いたいのだが、そうもいかない。


「初めまして勇者様。私はサキュバスのアスネロス」

「人を操っていたのはお前だな?」

「あら、操るなんて人聞きの悪い。お願いしただけよ」


 悪びれる様子もない。少しずつ腹が立ってきた。


「それにしてもあなた達、私の前にいるのに正気を保っていられるのね。普通はメロメロになっちゃうんだけど」

「俺にはそんなもの効かん」


 スキルがあるから。


「私も魔法抵抗力があるので効きません」


 クレアは自信を持って言う。そうなのか。まあ精神的には逞しいかもしれない。


「アタイは、ほら、お金とか信じてるから」


 おい! お前さっき神より人とか言ってただろ!? 全然信じてねーじゃねえか!

 まあいい。さっさと片付けるぞ。


「覚悟しろ!」

「あら? いつ私が戦うなんて言ったかしら?」


 アスネロスがパチンと指を鳴らすと、部屋の奥の扉から人間がわらわら出てきた。どうやら、まだ操られている人いたようだ。


「じゃあね~。後はこの子たちが相手するから」


 そう言ってアスネロスはさっさと奥へ脱出しだした。


「あっ! 待て――」

「勇者様! 町の人が先です!」


 くっそ! 卑怯な! ああ、もう!


「さっさと気絶させるよ!」

「くっ! 仕方がない……」



 その後3人で町の人たちを気絶させ、正気を取り戻させた。

 一段落してから奥の部屋を調べたが、もはや影も形もなかった。


「この町の洗脳騒ぎは、これで片付いたのでしょうか?」

「多分、な……」


 とはいえ、俺は確信が持てなかった。

 イライラとモヤモヤは募るばかりである。

 あー、スッキリしない!





――――――――――――――――――――

女神への質問コーナー

Q イライラを解消する方法を教えてください。


A 厳しい旅において気持ちをコントロールすることは大切です。どんな敵が出てきても冷静に対処する訓練をしておきましょう。女神のおススメは滝ですね。打たれてヨシ、近くにいてマイナスイオンを吸収するもヨシです。たまにはパーっと遊んでも良いんですよ? 魔王を倒すことだけが、あなたの人生ではありませんからね。

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