第19話 まともに制止できません

当身あてみ』……殴ったり、蹴ったりといった打撃技全般を指す。よく漫画とかで首にチョップして気絶させたりするが、あれも一応当身ではある。どっちかって言うと、当身は気絶させる技だと思っている人の方が多い。格闘ゲームの返し技を『当身』と言ったりするが、あれは当身じゃなく当身(打撃技)を返す技です。種類ややり方は流派によって異なるが、技量差が十分にある場合相手を殺さずに止めることができるため重宝される。この場合、何故か当身をする側のパワーは計算されないことが多く、どんな怪力でも当身をすれば相手を生け捕りにできる。お陰で不殺ころさずの誓いを守ることができるでござるよ。おろろ。




 闘技場で観戦し興奮冷めやらぬ晩のこと。


 俺たちは町の宿屋で束の間の休息を取っていた。初めは『知覚特化』のせいで眠れなかった俺だったが、人間というものは慣れる生き物である。そこそこ眠れるようになっていた。寝相の方も大分良くなっており、物を壊しまくっていた当初より被害は少ない。無いとは言わない。


 しかし、深夜3時ころ――


「ん?」


 俺は何か気配を感じて目を覚ました。人が近づく気配がする。

 俺はベッドから跳ね起きた。ほぼ同時くらいにメイシャも飛び起きる。


「何か、来る!」


 この言葉を言った直後、武器を持った人がなだれ込んできた。


「何だ!? 盗賊か!?」

「いや、どうも違うねえ。町の人間みたいだよ!」


 メイシャの言う通り、人物や服装を見ると戦い慣れしていない一般人。老若男女入り混じっている。だが、その目は正気ではなかった。止めろと言っても聞いてくれなさそうだ。


「傷つけたくない! 無力化してくれ!」

「まったく! 骨が折れることだねえ」


 メイシャは攻撃を上手くかわしながらも急所を狙い気絶させていく。いい動きをする。

 俺も軽く『当身』をして意識を奪っていく。

 あれ? 『当身』使ったら俺、獲物が狩れるんじゃ……。

 そんなことを考えていたら、口から涎が――


「ちょっと勇者! 真面目にやりな!」

「ああ、すまん」


 ホントにスマンことです。



 15分後

 あらかた町の人を気絶させた俺とメイシャはようやく落ち着くことができた。


「お疲れ、メイシャ」

「ああ。それにしても……」


 部屋のドタバタにも我関せずで寝続けるクレアがそこにいた。

 気持ち良さそうに寝息を立てている。


「いい性格してるよ、コイツ」

「まあ寝る子は育つって言うから……」


 何が育つのか? それは俺にも分からなかった。




――――――――――――――――――

女神への質問コーナー

Q 当身を使って狩猟はできますか?


A そうですね……人間とそれ以外の生き物では急所の位置が違いますから、一概には言えません。でも脊椎動物だったらイケるかもしれませんね。上手く経絡秘孔とか突ければ……。あれ? 何か間違えましたかね?

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