第15話 まともに演奏できません

『絶対音感』……あらゆる音を音階として聞き分けることができる能力。現実世界にも存在するチート能力で、これがあればイビキや騒音もメロディーに聞こえるのだろうか?伝統的に勇者は何故か楽器の演奏を強いられることが多く、音痴だったりすると物語が進まないといった致命的な影響が出る恐れがある。ちなみに筆者は未だに音符のことをオタマジャクシと言ってしまうくらいの音楽初心者で、このスキルを持っている人を『ホント凄いわ、マジ尊敬する』と言っていたらしい。ピアノかバイオリンが弾きたかった。




 無事に山を越え隣国に入った俺たちは、近くの村で悩み事の相談を受けていた。


「近くの塔に魔物が住み着いてね。畑などを荒らして困ってるんだよ」


 お婆さんは元気なく、そう言った。

 畑を荒らす魔物か……。まるで猪みたいな魔物だな。


「勇者様、放って置けませんよ!」


 クレアは意志のある強い目で俺を見る。うーん、まあ放って置くってのもなぁ。


「分かりました。俺たちで成敗してきます」

「おお! ありがたい! そうじゃ、これを持っていってください」


 そう言ってお婆さんは1本の笛と楽譜を渡してきた。


「その塔の入口は封印されており、普通には開きません。これで演奏すれば魔物の封印も解けるでしょう」


 女神の加護を受けしフルートを手に入れた。やった! 俺が持っても壊れない! これで演奏できるぞ!


「分かったよ、お婆ちゃん。俺、絶対演奏してみせるよ!」





 お婆さんから塔の位置を聞いた俺たちは、その塔にすぐに向かった。


「ここか……」

「確かに、この門は引いても押しても開かないねえ」


 メイシャが試しに門を触ってみたが開く気配はない。フッ……俺の出番だな。


「俺に任せておけ! 何せ俺には『絶対音感』があるからな!」

「そうなんですか!」

「へえー。人は見かけによらないねえ」


 素直に驚くクレアとちょっと失礼なメイシャ。今に見ておれ! 

 俺はフルートを構えた。


「はい、これ。楽譜です、勇者様」


 クレアが掲げる楽譜に集中する。


 ほう。

 これは……。

 なるほど。

 フムフム。

 よし、分かった!



「二人とも、一つだけ言っておくぞ」

「なんでしょうか?」

「なんだい? 勇者?」


 俺は深呼吸をしてから言った。


「『絶対音感』があるかどうかと、演奏できるかどうかは別問題だ!」


 結局、門はいつも通りぶっ壊して入った。

 ごめん、お婆ちゃん。約束、守れなかった……。





―――――――――――――――――

女神への質問コーナー

Q どうしたらフルートが演奏できるようになるのでしょうか?


A 楽器を演奏するのって難しいですよね。私も昔、天界で演奏したことあるのですが、演奏した後日同じ場所に行ったら『女神の演奏お断り』って看板が立ってました。失礼しちゃいますよね。まあ、楽器は練習しただけ上手になりますから、諦めずにコツコツ努力してください。女神も陰ながら応援しています。

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