第10話 まともに試練受けられません

『貫通』……対象が持っているであろう特性・耐性を無視して攻撃が行えるようになるスキル。別名、個性殺しとも言う。これがあるだけでレベルを上げて殴れば良いが成立してしまい、敵の立場が危うくなる。戦闘の緊張感も奪ってしまいかねない。




「ここが最下層みたいだな」


 俺とクレアは道中にある謎をほとんど解くことなく、というかほとんど解けずに最下層まで到達してしまっていた。


「あちこちが滅茶苦茶ですけど大丈夫でしょうか?」


 クレアは少しオドオドしながら尋ねてくる。正直言って知ったこっちゃない。大体なんでこういうダンジョンはご丁寧にギミックが再セットされているんだよ。まあ、もう再利用はできないと思うけど。


 最下層を少し進むと広場に出た。そこに何かいる。巨大な体躯。筋骨隆々の体に牛の頭をもった生物、ミノタウロスだ。


「よくぞここまでたどり着いた。ここにたどり着けたということは今までの勇者の足跡を実際に見て理解した、ということだな?」

「いや、見てないッス」

「と言うより、見れませんでしたね」


 受け答えの後、流れる沈黙。今までの勇者の足跡なんか知りません。


「いやお前、謎を解いてここまで来たんだから知ってるだろ?」

「謎解けなかったんで力技で来ました」

「いやお前、それはお前、物事には順序ってもんが……」


 ミノタウロスに理を説かれる人間の図。ちょっと納得いかない。


「それじゃお前俺の弱点とか分かんないだろ……。まあ済んだことはしょうがない。では今から最後の試練を行う!」

「試練って結構いい加減なんスね」

「力無き者勇者足りえず! この俺を倒してみろ! と言っても弱点を知らなければ俺を倒すことはできんがな!」


 そう言ってミノタウロスは大斧を振りかざす。力の試練が始まる。


「はい」


 俺はガラ空きのボディ目がけて軽くパンチをかました。


 ドグオォッ!!


 という聞いたことがない音を立てたかと思うとミノタウロスはそのまま膝を付きうっ伏してしまった。ピクリとも動かない。奥の扉が自動的に開く。


「力の試練終了か」

「相変わらず手加減ないですね勇者様」


 手加減ないというか手加減できない。できたら飯が食える。飯と言えば……。


「ミノタウロスの肉って食えるのかな?」


 俺は部屋を去り際、相変わらず動かないミノタウロスを見て言った。クレアは静かに首を横に振った。




――――――――――――――――――

女神への質問コーナー

Q 勇者の足跡を破壊しまくっている気がするのですが大丈夫でしょうか?


A 大丈夫です。今あなたが歩いている道が上書きされているだけですから自信を持って突き進んでください。あなたが歩いたその道が今後勇者が歩むべき道となるでしょう。ところで冒険には慣れましたか? あなたが怖い目に遭っていないか女神はとっても心配です。

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