第17話 乱戦模様
ーー悠星サイドーー
正式名称、自立型メイド風武装人形。その見た目は、注意深く観察しなければ人形だと分からないほど精巧にできており、ナイフに限らず、エネルギーを込めたある媒体を人形の体内に埋め込むことによって、自立して動く仕組みになっている。
そして、そのメイド15人と悠星が今まさに衝突していた。
「ちっ……こいつら一体一体が雑魚じゃねぇ」
悠星の動きに合わせて即座に対策を講じ、ズレがあればすぐ修正してくる正確さ。そして、時々ランダムに攻撃することで、コンピューター特有の動きに当てはまらない動きをしてくるため、弱点を発見しづらいのだ。
「オマケにこのメイド15人でのコンビネーションとか……高性能なのも考えものだなおい……」
このメイド達は不死身である悠星では自分達がどれだけ手を尽くしてもかすり傷一つすら付けられないことを見抜いている。それを裏付けるように攻撃も止んでいる。
タイミングを見計らい、不死身から別の能力に切り替える瞬間を狙い、致命傷を与えさせる。それがあのメイド達の狙いだと悠星は考える。
(確かに、今のままの俺じゃ決定力に欠けるからこのままだとメイドを倒すことができない。かといって、能力切り替えをしたら、致命傷は避けられない)
八方塞がりである。能力転換にはラグがある以上、迂闊に動けないーーのであれば。そのまま戦うしかない。
実は不死身であるからと言って能力が全く使えないというわけではない。微力ながらではあるが、あの模擬戦で見せた『土属性』の能力が使えるのだ。不死身の影響で能力を使えないのではなく、練度が落ちすぎて、使い物にならないから使えないのである。
そのデメリットがこんなところで役に立つとは夢にも思わなかったが。
(瞬間的になら、『土砂崩し』を使える。不意打ちで発動すれば、相手は間違いなく攻撃を仕掛けてくる。だったら、一か八かやるしかないな)
「ーーー!!」
不死身の状態での『土砂崩し』は悠星は目の前にいたメイドを正確に捉え、攻撃する。
やはり、練度が落ちているため、15体のうちの1人しか倒せなかったが、その光景を目の当たりにした他のメイド達は、一斉に彼を袋叩きにせんと襲いかかる。
しかし、悠星の身体は相変わらずで、刀は折れ、銃も弾かれる。その僅かな隙を彼は見逃さずに空かさず『土属性』の能力を発動。
「おらああああああ!!!」
能力を切り替えたことによって、どこからともなく土を生み出した彼はそれを巧みに操り、メイド達を瞬く間に戦闘不能にしていく。
武装したメイド人形を能力で一掃すると、あからさまな出口が出現した。
「なるほど。敵を倒すと出口が現れる仕組みってわけか」
これも罠だという可能性は捨てきれなかったが、とにかく彼は一度身体強化モードから不死身に戻ってから、出口から出ることにした。
ーー蓮サイドーー
「痛てて……こ、こはどこっすか? って腰痛……」
蓮は腰をさすりながら、辺りを見回す。それは、本当に敵地のど真ん中なのかと疑うほどの光景が広がっていた。
彼がいた場所は都内の閑静な街並みで、高層ビルやマンション、商店街に至るまで。忠実に再現されていた。触ってみても、本物と変わらない質感だった。
「それにしては人っ子1人いない感じっすけど……」
先ほどの出来事を振り返る。あの波風彩里という女が合図した瞬間までしか記憶にない、ということはどうやら散り散りにすることで戦力を分散するという策略にまんまと引っかかってしまったらしい。
「とにかく皆と合流しなきゃな……」
「……残念だが、それは無理だ」
「! 鳶沢先輩……」
一歩は突如として、空中から現れた。タイミングとしては、非常に最悪である。ここで彼に会ってしまった以上、戦闘は避けられない。
「鳶沢先輩もここにいたんすね……疑っていたわけじゃないけど、本当にここが敵のアジトだったとは」
「ふん。
「なるほど。でも、自分のアジトにわざと敵をおびき寄せるなんて随分と自信があるんすね」
「さぁな。ただ、依頼主も自分の計画に絶対的な自信を持っているのは確かだ。俺はその計画が正しいと判断したまでのことだ……さて、お喋りはここまでにして、そろそろお前を始末させて貰おうか」
「俺もそう簡単にやられるつもりはないっすよ」
ピリピリと緊張感が高まると同時に、臨戦態勢に入る。
片や、『星崩し』という異名がつけられるほどのアメリカの英雄。
片や、『雷神』と呼ばれ、霧峰学園でも5本の指に入る実力を持つ者。
やや蓮が見劣りするが、模擬戦での一戦では、お互いの実力は伯仲していた。その2人が満を持して、再び激突する。
「この結界はあの女の計らいで、どちらかが勝たないと脱出することも壊すこともできない結界でな。これなら、出し惜しみすることもなく、思い切りやれるだろう。さぁ、来るがいい蓮。お前の力をこの俺に示してみろ」
「言われるまでもないですよ、鳶沢先輩」
この怪物を相手ではどんな小細工も通用しない。ならば、最初から『雷神化』をして全力で倒しに行くしかない。だが、『雷神化』は真耶に潜在能力を引き出して貰ったとはいえ、長くは持たない。せいぜい10分が全力で戦える限界だ。それ以降はパワーダウンして、負けは確実である。
(賭けるしかねぇか……)
相手がどんな切り札を持っていようが、何しようが『雷神化』をしなければ話にならない。一撃一撃が隕石よりも重い上、普通の雷化では、ダメージを与えることすらできずに一方的にやられてしまう。
それほど、彼は強い。
「『雷神化』!!!」
「来い」
蓮が『雷神化』をして、紫電を纏うと同時に一歩も呼応するように動くがーー彼の速さは初速から音速を超える。
音速以上の速度から放たれる拳は確実に一歩の顔面を捉え、周りの衝撃波で一歩自体が攻撃を避けたとしても、ただでは済まないことを物語っていた。
「ちっ……」
目の動きや気配察知でどうにかなる速度ではないため、攻撃を受けざるを得ない一歩。攻撃は打撃を増すほどにどんどん速く、鋭くなっていく。最初はマッハ10だった速度も今は5倍のマッハ50に達している。
その絶え間ない攻撃によってそれも阻止される上、雷撃によって身体が少しずつ痺れ始めている。
「ちょう……にのるな」
しかし。一見優勢に見える攻防は。短時間で覆る。
「…………?」
「……調子に! 乗るな!!!」
「っ!」
一歩の身体から発せられた膨大なエネルギーが蓮を跳ね除け、絶え間ない攻撃に終止符を打った。
「流石に堪えるな……それにしても考えたものだ。俺に攻撃を食らわないために、絶えず攻撃をし続けるとは……攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ」
(……あれだけ雷撃による打撃を浴びても手応えが感じられないなんて)
鋼鉄やダイヤモンドよりも硬いものを殴っているようだ。こちらが攻めているはずなのに、攻め切れずにいる。攻撃力だけではなく、防御力も桁違いのようだ。『雷神化』した蓮の打撃ですらまともにダメージを与えられていない。
「だが、俺もこのままやられていては割に合わん。貴様にも『奥の手』があるようにこの俺にも『奥の手』がある。それを使わせて貰おう」
「! させるかっ……!」
それをやらせてしまっては、勝機がなくなる可能性がある。いや、ほぼ無くなると言ってもいい。蓮は彼の『奥の手』を一度だけ見たことがあり、そしてその『奥の手』は絶対にやらせたら、もう手がつけられないことを知っているからだ。
「『電磁砲撃』!!!」
電磁砲撃。自らの持ち得るありったけのエネルギーを瞬時に雷に変えて、その変えた反動で生じる磁力さえも自らの必殺技として取り込む、というものである。
その威力は絶大で、適応範囲が最大で半径15キロメートルと広範囲であるため、避けることはほぼ不可能である。そんな近距離でまともに食らえば、いくら一歩といえど大ダメージは間逃れない。
周りにある街並みは一瞬にしてすべて吹き飛び、更地と化し、瓦礫の山へと変わる。雷撃は上空のみならず、地上からも降り注いでいる。
それでも結界が壊れないのは、十中八九条件を満たせていないからであろう。
「ちくしょう……とっておき、だったんだけどな」
今の攻撃で蓮のエネルギーは半分以上使い切ってしまった。正直なところ、『雷神化』を維持するのもかなり億劫である。
当然、一歩は生きていた。多少ダメージは負っているが、五体満足に生きていることが煙の中から聴こえてくる声で察することができた。
「ぐっ……げほっげほっ!! や、やってくれたな。今のは流石に死ぬかと思ったぞ……だが、俺の『奥の手』は無事発動した。大方、短期決戦を狙ってこれほど強力な技を放ったのだろうが……もう、お前に勝ち目はない」
「はぁ……はぁ……事前情報がある分、より絶望的っすよ全く……」
一歩の『奥の手』。それは、自らが大きなダメージを負っていればいるほど、パワーや防御力が遥かに増すというものだ。ただでさえ、チート級で反則的な力を持つ彼には、うってつけの『奥の手』というわけだ。
「さぁ、地獄か天国。好きな方に行くんだな。遺言があれば聞いてやるぞ」
「へへ……そりゃあ、天国がいいっすね。遺言は……何がいいんだろ……急に言われると思いつかないもんっすね……」
一歩の遠回しで露骨な勝利宣言に、抵抗する気力も見せない蓮。無理もない。それほどこの状況は絶望的だ。
「そうか。それでは遠慮なく殺させて貰おう」
一歩は彼の言葉を聞き届けると、トドメを刺すことにしたのだった。
ーー氷雨サイドーー
随分と歩いた気がする。何時間か。何週間か。何ヶ月か。あるいはそれ以上の時間。もはや、正しい感覚や方向性を完全に失っていた。
ここはもう既にーーあの喫茶店の原型を留めていないのだろうと彼女は早々に気づいた。これではまるで入り組んだ迷宮のようだな、と氷雨は思った。
「そう言えば、この喫茶店の名前が『ラブリーラヴィリンス』でしたね。ラブリーの意味はわかりませんが、ラヴィリンスの意味はわかったような気がします」
それにしてもゴールが見えてこない、というのは思いのほか、精神的にきつい。一刻も早く出口を見つけて皆と合流しなければ……と氷雨が思った矢先に後ろから、この状況を作り出した本人がコツコツと足音が聞こえた。
くるりと振り向くと、そこにはピンク色の髪をした少女が不敵な笑みを浮かべながら、こちらへ近づいてきた。
「波風、彩里さんでしたよね」
「あら、私の名前を覚えてくれていたのね。相川氷雨さん」
「ええ。嫌でも頭に残りますよ。そのぶら下げているものを見れば、ね」
「あら、あら。私の胸が気になるのかしら? そうでしょうそうでしょう。特に、あなたのように貧相な身体をしているような人にはね」
「はぁ? もう一度同じこと言ってみてくださいよ。そのぶら下げている重そうなものを引き千切って楽にしてあげますから」
「あらあら怖い怖い。でも、貴女もこの状況が分からないほど頭が回らないわけではないでしょう? 戦闘向けの能力でない以上、貴女に勝ち目はありませんわ」
「……それは、やってみないとわからないですよ」
「いいえ。わかりますわ。それを今から証明して差し上げます、わ!」
彩里はそう言うとナイフを氷雨めがけて真正面から投げつける。が、彼女は同じ位置から数センチ動いただけでそれを容易く躱した。
「! ……マグレは二度と起きませんわ」
しかし、ナイフはいつまで経っても氷雨を刺せずにいた。何十本ものナイフがほぼ全方位から飛んでくるのがあらかじめわかっているかのように、彼女は態勢を一切崩すことなく、全て避け切る。
「……その眼……」
「ええ。あなたのお察しの通りです。貴女の飛んでくるナイフなら、眼を瞑っていても避けられますよ」
氷雨が使用している眼は
もう一つは
これらを併用し、オッドアイになることで彼女は超人的な気配察知能力を得る。ただ避けるだけなら、得意分野である。
「ふふ……確かに攻撃は当たりそうにないわね。けれど、避けているだけでは私には勝てませんわよ? 」
「……そうですね。あなたの言う通り、ただ避けているだけでは勝てないですし、長期戦になればなるほど勝てる可能性は低くなるでしょう」
氷雨は誰よりも自分の置かれている状況が絶望的であると分かっていた。それは、自らを奮い立たせるためか。それとも、絶望に絶望しないためか。だからこそ、彼女はこう口にするのだ。
「だから、ここから反撃です」
「反撃ですって? そんなのどうやって……」
それはほんの一瞬のことだった。
氷雨はあらかじめナイフを避けながら詰めていた間合いをさらに詰めると、彩里の顎めがけてアッパーを当てる。
「フンすっ!」
「ゔぇ!?」
そのアッパーは下顎を完璧に捉え、確実にクリーンヒットした。どれだけ強くても人間である以上、急所は変わらない。ならば、その小さな拳にある分だけのエネルギーを込めに込めまくって、思い切り急所を付けばいい。
対して、彩里の方だったが、ギリギリでガードしていたのか、どうやら気絶まではしていないようだった。下顎にアッパーがクリーンヒットしただけあって、頭がぐわんぐわんとして彼女の気分は最悪だ。
しばらくはまともに喋ることも動くこともできなかったため、氷雨に胸を本当に引き千切られそうになる。
「この! この! 一体、何をどう食べればこんなに育つんです!? もいでやる! 引き千切ってやる!!」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
「私はいつまで経っても大きくならないのに! 大きくなる方法を調べては試しているのに! 全く効果がないですし……ほんっっと、世の中というのは不公平です。理不尽です。神様なんてクソ食らえです」
「ちょっ……ゆ、ゆ、許して……」
「いいえ。断じて許しません。ただその贅肉をぶら下げているのでも許せないのに、あなたはあろうことか私の胸について揶揄しました。私だって好きで! 貧相な身体を! しているわけじゃ!! ないんですよ!!」
「本当に千切れる!! もげるー!!?」
彩里は完全に涙目だった。起き上がられるようになる頃にはかなりの? ダメージを受けていた。
「ええい! お退きなさい!!」
「おっとと……」
「ひ、ひ、酷い目に遭いましたわ。まだ胸が痛いですわ……こんなにコケにされたのは初めてですよ。ですが、勝てる可能性なんてものは、最初からないただの幻想ですわ。一縷の望みすら私がこのナイフで断ち切ってあげますわ」
彩里の能力は、『十得ナイフ』。文字通り、10種類のナイフを所有しており、それぞれ能力が異なる。そのナイフから放たれる技は殺傷性が高く、応用力も兼ね備えている。
そして、彩里が異空間から取り出したナイフがーー第8のナイフであった。
「このナイフは
「そ、そんなナイフまであるとは……」
「なんで自分の能力のことをペラペラと喋ったか分かるかしら? それがこのナイフを必中にするための条件だからよ。だから、もうどれだけ頑張って避けても無駄ってわけね。これで、さよならですわ氷雨さん」
「!!」
チェックメイト。彩里が勝利を確信した瞬間であった。
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