世界群

 ――銀髪の少女が現れてから約10分後。

 その少女――女神ルナと共にエリアの1つであるルムーナへと向かったリルが再びブライサロの屋敷へ戻ってきた。


「ただいま。ちょっと大変なことになっちゃって……キミたちの力を貸してくれないかな?」


「えっと、どういうこと?」


 なぜ力を貸して欲しいのか理由わけがわからずのぞみが説明を求めた。


「世界が消滅しそうなんだ!」


 リルはそう言ったがそれで伝わるはずもなく、拓人たちはますます訳がわからず混乱した。


「んーと、どこから話せばいいかな……」


 その様子を見たリルは少しの間考え、


「まずは世界群から説明しないとね」


 そう言って説明を始めた。


「この世界やキミたちの世界みたいな世界は他にもたくさん存在する。それを同じような世界ごとに分けたものを世界群と呼ぶんだ。世界群はいくつも存在していてこの世界は第2世界群に入ってるんだよ。ちなみに世界群同士はそれぞれ次元の壁で、世界群の中の並行世界は時空の壁で隔てられているんだ」


「世界群の中にはほぼ同じ歴史の並行世界のみが存在していて、どこかで大きく歴史が違う世界は別の世界群に存在してるってことですか?」


 のぞみの質問にリルはそうだと答え、話を進めた。


「そしてその世界群は実はボク達が管理してるんだ。簡単に言えば世界群が崩壊しないようにしているって言えばいいかな。それぞれの世界はその世界の出来事を記録してるんだけど、1つの世界が記録できる歴史は1つだけなんだ。だから、もしも何かの切っ掛けで歴史に異常が起きた場合はそれを修正したり、その歴史を新しい世界にしてその世界を世界群から抜いて、それを中心に新しい世界群を創る。そして、その世界と元の世界の歴史を確定させるんだ。」


 話は本題へと入る。


「それで今回何が起きたのかと言うと、世界群の1つに異常が発生したんだ。その世界群は1年ほど前、ボクが封印から復活してすぐの頃にキミたちの世界群の中で1つの世界にだけ起こった出来事があって、それがあった世界を中心に創ったんだけど、その世界の歴史が変えられたみたいなんだ。このままじゃ世界に記録された歴史と変えられた歴史で矛盾が生じて世界が消滅してしまうんだ 。しかも、1つの世界が消滅したらその影響が他の世界にも及んで、この世界群そのものが無くなってしまうんだよ。そして、世界群が消滅したらさらにその影響が他の世界群にも及んでしまうんだ」


いくつもの世界が影響を受ける。それはこの世界や拓斗たちのいた世界も例外ではない。


「その世界を世界群から抜くことは出来ないのですか?」


 それは凜華が抱いた疑問。

 先程リルは新たに小界群を創ったと言っていた。ならば、同じようにすればいいのではないかと考えたのだろう。


「それは無理。世界群に干渉するにはその世界群に対応したアクセスカードが必要だけどそれは盗まれちゃったからね。それに、今回の場合はその世界群はその世界を中心に出来てるからね。他の世界は全てその世界から分岐した世界だから、その世界が消えるとその世界群そのものが消滅してしまうんだ。」


「そうですか……」


「うん。だから直接行って原因を探るしかないんだけど、アクセスカードがないからボクたちは行くことが出来ない。――そこで、キミたちにその世界に行って欲しいんだ」


「つまり、私たち3人でその世界へ行き原因を調査して欲しい、ということですか」


「うん、そういうこと。お願いできる?」


 異変のあった世界へ行き、その異変の原因の調査、そして世界の消滅を防ぐ。それがリルが3人に頼みたいことだった。


「それは構いませんが、どうやってその世界へ行くのですか?」


 その世界へ行くことは了承した凜華だが、その方法がわからなかった。アクセスカードという物が必要なのは自分たちも同じなのではないか?そう疑問を抱いた。だが、3人は既に時空の壁を、次元の壁を超えてその世界へ行くために必要な物を持っている。――いや、それは3人しか持っていない。


「あの鍵……」


 拓人がポツリと呟いた。


「そう、それ!その鍵はキミたち3人しか持っていない。だから、キミたちに頼みたいんだ!」


「ですが、それなら私たち以外でもいいのではないですか?」


 あの鍵を使えばいいと言うのであれば、素人である自分たちが行く必要は無い。そういうことに適した人物が他にいるのではないか?そのような考えからの発言だった。


「ううん。キミたちの鍵はキミたちにしか使用できない。使用者として登録されている者以外には使えないし、使用者を変更することは出来ないからね。それに、鍵の材料を盗まれたから新しい鍵を作ることは出来ない。だから、キミたちだけが頼りなんだ」


「わかりました。私よりも他の方がいいのではないかと思ったのですが、そういうことなら仕方がありませんね」


 自分たちにしか鍵が使えないのなら自分たちがやるしかない、と改めて了承する凜華。


「ありがとう。他の2人にも手伝って欲しいんだけどどうかな?……手伝ってもらってもいい?」


「うん、いいよ」

(······世界、か)


「私も手伝うよ」


「ありがとう。3人共――それじゃまずはルムーナに行こっか」


 そう言ってリルは1枚のカードを取り出す。


「Dゲートオープン」


 カードを掲げてそう唱えると目の前に白く輝く長方形が表れる。


「――あの、リルさん。先程も思ったのですがそれは一体何ですか?」


 凜華がその白い長方形を指してたずねる。


「これはこの世界内の2ヶ所の空間を繋いで好きな場所に移動出来るゲート。どこにでも行けるゲート――Dゲートだよ。さぁ、みんな早く入って。急がないとゲートが閉じちゃうから」


 3人は『どこにでも行けるゲート』という名前はどうなのだろうか?という疑問をすぐに消し去り、ゲートを通った。

 ゲートの先には今までに見たことのない風景が広がっていた──訳ではなく、そこは書庫のような場所だった。いくつもの本棚が設置され、何千冊という本が置かれていた。


「……3人とも来てくれたんだ。ありがとう」


 不意に声が聞こえ、そちらを見ると女神ルナの姿があった。


「……こっちに来て」


 ルナに言われた通り3人とリルがそこへ向かうと机の上に大きな水晶があった。だが、黒く濁っていて、禍々しいオーラを放っている。


「……これは神の水晶。これで自分の担当する世界群を管理している。……水晶が透明な時は何も問題は無い。……でも、さっきリルと見た時に黒く濁っていた。こんなことは今までは無かった」


 そこで原因を探ったところ、歴史が変わってしまったことが原因だとわかったがそれがなぜ起きたのかわからず、次空の鍵を持つ3人に原因の解明を頼みたいということだ。


「それじゃ、早速出発してもらうね。これを渡しておくから何かわかったら教えて」


 そう言ってリルは1枚のカードを凜華に渡した。


「これは……?」


「それは連絡をとるためのカードだよ」


「これで連絡を取りあう、ということですか」


「そういうこと。――他に何か質問とかある?」


 リルはそう言って3人を見たが誰も質問をしてくる様子はなかった。


「それじゃ、3人とも鍵で水晶に軽く触れて。そして、近くのドアノブに鍵を軽く触れさせた後にドアを開けて通れば、水晶に設定された日付、去年の11月3日に行けるよ」


 3人は言われた通りに行動し、ドアを開いた。

するとドアの向こうは白くなっており、光が溢れ出してくる。


 3人がドアを通ると、ドアは勝手にとじられた。


 ――次に3人の視界に映ったものは校舎と、楽器のような物を手にした1人の少年と人型をした大量のロボットのような何かが戦っている光景だった。

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