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ハカセはゲラゲラと笑いながら、校庭に視線を向けた。校庭に倒れていた生徒が、一人また一人と立ち上がる。
みんなどうして自分がそこにいるのか、理解出来ていないようだった。
階下から教師の声がする。
「誰がこんな悪戯をしたの!? 早くネットを外しなさい!」
「早く出さないか!」
クスクスと生徒の笑い声も聞こえた。
『先生も生徒も正気に戻ったみたいだな』
「そうね」
『流音、早くみんなのところに行け。廊下で気絶している二人も起こしてやれ』
「唐沢先輩……。何処にも行かないよね? ずっとこの学校にいるよね?」
『俺か? 自力で呪いを解くことは出来ないからな。残念ながらここから出ることは出来ない』
「唐沢先輩……壁を抜けたら……自由だよ」
『俺は壁を抜けたりしない。ダメージが大きいからな。流音、そんな悲しそうな目をするな。俺が自分で決めたのだ。引き続きコンクールのモデルも引き受ける。流音が無事に卒業するのを、この美術室でちゃんと見送ってやる』
「……はい」
『ほら、早く行け。空野が待ってるよ』
「はい」
学校を守ることは出来たけど、唐沢先輩の呪いを解くことは出来なかった。
唐沢先輩の気持ちを思うと、悔しさと切なさが込み上げてくる。
「流音、行こう」
「うん」
美術室を出たあたし達は、廊下で気絶していた伊住君と黒谷君を起こす。
「空野! 本橋は……!?」
「伊住、もう終わったよ。全部終わった。みんなの洗脳も解けた。もう大丈夫だ」
「全部……終わった?」
伊住君と黒谷君が顔を見合せた。
「あとは、校長の説教が待っているだけだよ」
「説教?」
「教師に体育祭のネットを被せたり、生徒会室のドアを壊した。みんなで説教を受けよう。ほら、行こうぜ」
「何だ、気絶してる内に戦いが終わるなんて、記事が書けないよ」
「記事は諦めろ」
「なんだよ」
伊住君がガックリと項垂れ、みんなから笑みが漏れる。
やっと……
みんなに笑顔が戻った。
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