流音side

165

 唐沢先輩の指先は、真っ直ぐ本橋さんに向けられた。


 唐沢先輩が呪文を唱えると、指先から閃光が放たれた。その光は蜘蛛の糸のように、本橋さんの体を捕らえた。


「何をする! 離せ! 離せ! ぎやあああー!!」


 本橋さんの体から、魂が抜け出るのを、この目ではっきりと見た。


 体外離脱した魂は、閃光に引き込まれるように、人物画の中に封じ込められた。


 魂の抜け殻となった体はパラパラと崩れ落ち灰となり、窓から入る風に吹き上げられ、室内を舞い校庭へと散る。


『あたしに何をしたの! ここから出しなさい!』


 人物画から本橋さんの叫び声がした。


『君には俺が見えていた。だから十人目として封じ込めたまで。だが、心身ともに清らかな美少女でなければ、残念ながら俺の呪いは解けないようだな。すなわち、君の絵画はもう不要だ』


 唐沢先輩は本橋さんの人物画を掴むと、美術室の窓から放り投げた。


『ぎやあああー!』


 断末魔の叫び。


 太陽を隠していた黒い雲は消え去り、雨が止む。


 校庭で戦っていた平沼先生の頭上に、その人物画は落下する。次の瞬間、ハカセが人物画に火を放った。


 メラメラと燃え上がる炎は、人物画だけではなく、平沼先生の体をも赤い炎で包んだ。


『ぎやあああー!』


 平沼先生も本橋さんの魂も炎に包まれ、火だるまとなり黒煙を上げ灰となる。


 周囲にいた生徒が、気を失いバタバタと校庭に倒れた。


『ハカセ、雨雲は消えた。太陽が光を放つ前に、早く校舎に戻れ!』


『ジュナ、わかったよ』


 黒いマントを翻し、蝙蝠へと姿を変えたハカセは、一気に舞い上がり、美術室の中に飛び込んだ。


 唐沢先輩の呪文により、地縛霊は再び地底へと封印され、美術室の床に落ちていた肉の塊や異臭は、蒸発するように徐々に消えていった。

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