澄斗side

164

「うわあぁぁー!!」


 伊住と黒谷の叫び声が響く。振り向くと二人は生徒会室を封じていたドアやパネルと共に吹っ飛び、廊下の壁に激突し気絶した。


 生徒会室から、本橋を先頭に生徒会役員が列をなし、ゆっくりと俺に歩み寄る。


「……本橋」


「空野君、そこを退きなさい」


「ダメだ! お前らをここに入れるわけにはいかない!」


「あなたもくだらない儀式なんて止めさせたいのでしょう。だったら口を挟まないで。黙って静観してなさい」


 本橋は俺を指差す。

 不気味な転校生達が俺の周りを囲み、一斉に俺の体を掴み動きを封じた。


 俺が力の限り引いても開かなかった美術室のドアが、本橋が左手で指差し、指先を左右に動かしただけで大きな音をたて吹き飛んだ。


 室内が露になる。キャンバスの前に立っている流音の姿が見えた。


 俺には美術室の幽霊の姿は見えない。


 でも……

 確かに聞こえたんだ。


 今まで一度も聞いたことのない、男子の声を……。


『待っていたよ、本橋つみれ。この学園を乗っ取るがために、醜い地縛霊を解き放ったヴァンパイア!』


「唐沢樹那、やっと本性を現したわね」


 俺の目の前で、この世のものとは思えない光景が広がる。


 転校生の皮膚がズルズルと垂れ下がり、肉の塊が床にぼとぼと落ちた。腐敗臭が廊下に漂い、思わず吐き気をもよおす。


 醜いゾンビの姿、指も脚も骸骨となり、髪も抜け落ち目玉も床に転がる。


 だが、本橋の姿だけは人間と変わらない。ただ違うのは大きく裂けた口元から、鋭い牙が光っているということ。


「流音! 逃げろ! 逃げるんだ!」


 俺は力の限り叫ぶ。


「逃げないわ。唐沢先輩、早く私を……人物画に……」


 流音は何かに縋ろうとし、床に倒れた。


『呪われし者達を操る魔物よ! その醜い魂をこの絵画に封じ込めてやる!』


 この絵画?


 床に倒れた流音の目の前には、一枚のキャンバス。そのキャンバスが、ゆっくりと向きを変える。


 そこには……

 本橋の姿が描かれていた。


 美少女の人物画ではない、その人相はこの世のものとは思えないほど、醜い顔をしている。


「……何をする気なの。みんな、この幽霊の体を食いちぎり、地底に連れ去るのよ!そうすればこの学園は我らの者!」


 地縛霊達は獣のような叫び声を上げながら、一斉に美術室に飛び込む。


 俺はその隙に、床に倒れた流音に走りより、流音の身を守るために体に覆い被さった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る