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 唐沢先輩は空を見上げ暫く考えていた。


「唐沢先輩!」


『流音、覚悟が出来ていると言ったな』


「……はい」


『二度とこの世界に戻れないかもしれないんだよ』


「……平気よ。だからあたしを描いて下さい」


『そこに座れ、俺が座っていた窓際だ』


 唐沢先輩があたしの絵画のモデルとして座っていた窓際。


 あたしは同じ場所に座り、窓枠に少し背をもたせる。朝日があたしの背を照らした。


 唐沢先輩は絵筆を動かす。

 時折、緊張しているあたしに優しい眼差しを向けた。


 唐沢先輩があたしの絵画を描き終えたら、あたしの魂は抜き取られ、あの人物画に封じ込められてしまう。


 人間に戻った唐沢先輩と、一度でいいから話をしたかった……。


 無心に筆を動かしている唐沢先輩は、本当に素敵だな。


 始業のチャイムが鳴り、唐沢先輩は一旦手を止めた。


『流音、授業が始まる。教室に行け』


「授業なんて受けない。唐沢先輩続けて」


『流音が居なくても、続きは描ける。君の顔はもう覚えているからな。放課後仕上げをする。もう一度ここに来てくれ』


「……放課後……ですね。わかりました。唐沢先輩、必ず人物画を完成させて下さいね」


『わかっている。早く行け』


 あたしは唐沢先輩の言葉に頷き、美術室を飛び出した。


 本当は……

 まだ迷いがあった。


 怖くて、怖くて……

 堪らなかった。


 あたしの絵画が完成すれば、あたしの命はなくなる。


「流音、遅かったな。幽霊と何を話してたんだ?」

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