流音side

151

「パパ、ママ、もしあたしが急にいなくなったら寂しい?」


 日曜日、夕食を食べながら両親に質問した。


「やだ、寂しいに決まってるでしょう。プチ家出でもするつもりなの? 家出する時は何処に行くか知らせてからにしてね」


 母はケラケラと笑った。

 相変わらず暢気だな。プチ家出する娘が、家出前に行き先を報告なんてしないよ。


「流音、留学でもしたいのか? 流音がしたいようにすればいいんだよ。お前の人生なんだから」


「留学? あらそうなの? 海外に行くとなると寂しいわね」


 両親は完全に勘違いしている。


「あたしの好きにしてもいいんだね。わかった、パパママ、あたし……感謝してる。二人の子供で良かった」


「なぁに、この子ったら。変な子ね。留学先を決めたら知らせなさい。相談に乗るからね」


 これが両親と一緒に過ごす最後の夜になるかもしれない。


 いつも口煩いと思っていた両親との会話が、じーんと胸に響く。


 あたしの人生なんだから好きに生きていいと言ってくれた父。明るく笑っている母。


 あたし、今まで気付かなかった。両親の愛情に気付かなかった。


 あたしのことを考え、あたしのことを一番心配してくれているのは、目の前にいる両親なんだ。


『ありがとう。大好きだよ』


 心の中で何度もお礼を言った。明日は早朝家を出るつもりだ。両親が眠っている間にここを出る。


「幼稚園の頃、肩叩き券上げたでしょう。パパもママも勿体ないからって使わなかったよね。あれまだ有効だから、あとで肩叩きしてあげるね」


 両親は顔を見合せ一瞬驚いたが、すぐににっこり笑った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る