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「こちらの世界とは、どういう意味?」
本橋はクスリと笑う。
「わかっているくせに。風見さんと一緒にいても、空野君にとって何のメリットもないわ。彼女は悪霊に支配されているの。心を悪魔に売り渡したも同然。きっと空野君を不幸にするわ。
あたしなら空野君を幸せに出来る。現実世界とは別の景色を見てみたいと思わない?」
俺は本橋の手を振りほどく。
「思わないね。俺は流音と同じ景色を見ていたいから」
本橋の顔から笑みが消え、鋭い眼差しを俺に向けた。瞳の色が黒から赤に変わる。
――『お前はきっと後悔することになる』
本橋の声とは異なる不気味な声がした。
憎悪を剥き出しにした悪魔の声に、俺の体は凍り付き全身に鳥肌が立つ。
本橋から逃げるようにエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターが上昇する。
エレベーター内の電気がカチカチと点滅している。
突然、パンッと音がし電球が割れた。頭上から硝子片が飛び散り、思わず頭を防御する。
五階に着きエレベーターが開いた。
目の前には母が立っていた。
「母さん……。どうしたの?」
「澄斗がいないから捜しに……。エレベーターの電球壊れたの? 管理人さんに連絡しないといけないわね」
母はパジャマ姿のままだ。
まるで何かに操られているかのようだ……。
「ごめん。帰ろう」
「最近本橋さんが来ないでしょう。ご両親が仕事で寂しい思いをしてないかしら。心配だわ」
エレベーターに乗り込もうとした母を制止する。
「母さん、行かなくていい! 目を覚ませ、どうしたんだよ?」
母がハッと我に返る。
「澄斗? あら……やだ。私こんな格好で廊下に出るなんて。どうしたのかしら?」
母は正気を取り戻し、自分の姿に狼狽え、小走りに自宅に戻る。
俺はチカチカと不気味に光る電灯の下を歩き、自宅に戻った。
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