147

 ハカセを死に追いやったのも、地縛霊の封印を解くきっかけを作ったのもあたし……。


 あたしが十人目となれば、唐沢先輩にかけられた呪いは解け、唐沢先輩はこの世に甦る……。


「おい、流音何を話しているんだよ? 呪いとか生き返るとか一体何のことだよ? 教えろよ」


 澄斗が心配そうにあたしを見つめた。


「あなた達を焼却させたりしないわ。あなた達を地縛霊なんかにさせない。だから、あたしに力を貸して」


『私達に力を貸せと? 笑わせないで。私達はジュナ様の命令にしか従わないわ。だけど、あなたが私達の条件を受け入れるなら話は別よ』


「……条件?」


『あなた、ジュナ様に人物画のモデルになって欲しいと言われているわよね』


「……はい」


『その意味、わかるわよね? ジュナ様があなたを最後の一人に選んだ。あとはあなたがそれに応じるまで。あなたが命を捧げると約束するなら、私達は美術室に戻ってもよくてよ』


 それはあたしが自ら死を受け入れ、自身の描かれた絵画に魂を入れることに承諾するということ……。


「流音! 説明しろ!」


 澄斗は少し苛立ったように声を荒げた。


「澄斗、少し黙ってて。今彼女達と話をしているの」


「彼女達が嫌がっているのなら、俺が自力で壁から絵画を引き離すまでだ」


 澄斗は乱暴に一枚の絵画を掴む。


『やだ、野蛮ね。まるで獣みたい。そんなことをしても壁から離れなくてよ。私達はジュナ様の命令に従うのみ』


「……っ、何で離れないんだよ!」


「澄斗やめて。彼女達には意志があるの。この絵画は生きているの。乱暴にしないで」


 澄斗があたしを見つめ、絵画から手を離した。


「あたしに任せて、必ず月曜日の朝までには、箱に入ってもらうから」


「そんなの不可能だよ」


 澄斗は半ば諦めたように、自宅に帰った。


 ―土曜日、深夜未明―


 眠れない私……。


 彼女達の話し声がする。


 でも、瞼は重く開かない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る