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 ◇


 本橋さんの発言通り、転校生は各学年の各クラスに一名ずつ入った。


 一年A組は誰も入らなかったが、クラスであの異様な光景は話題にもならなかった。


 伊住君や黒谷君は今までと特別変わった様子はないが、クラスの生徒はいつの間にか本橋さんがリーダー的存在となっていた。


 あたしの親友である千秋や小春までもが、あの本橋さんと一緒にいることに、今更ながら気付く。


 いつも賑やかな教室が、一夜にして雰囲気が変わった。


 みんな……

 蝋人形のように無表情だ。


 朝見た転校生のように、全員椅子に座り黙って前方を見ている。


「千秋、小春おはよう。どうしたの? なんか変だよ」


 明るい性格の千秋が、声を掛けてもニコリとも笑わない。


 首がコキッと四十五度動く。


「もうすぐ柿園先生が来るわ。流音も着席したら?」


「……うん」


 澄斗に視線を向けると、澄斗は黙って頷いた。


 校内放送が鳴り、『全校集会をするため、全生徒は体育館に集合するように』と放送が流れた。


 クラスの生徒がスクッと立ち上がる。いつもならざわつき、なかなか指示には従わないのに、本橋さんを先頭に全員が整列し廊下に出る。


 廊下に出るとどのクラスも、転校生を先頭に整列し、軍隊のように行進している。


「風見さん、何か様子がおかしくない? あの絵画は悪の温床だと思っていたけど、あの絵画があることで、もしかしたら悪霊を封じていたのかも……」


 伊住君の言葉に、枯れた桜の木の根元から這い出した無数の黒い蛇を思い出した。

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