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 ◇


 美術室を飛び出したあたしは、サッカー部の朝練を眺めながら、校庭の隅にあるベンチに腰掛けた。


 桜の花はすでに散り始めている。一本だけ枯れた桜の木に視線を向けた。


「あの木の根元に空いた穴から、無数の黒い蛇が這い出して蠢いているのを見たんだ」


「蛇?」


「不気味だった……」


 空が急に陰り、ゴロゴロと雷が鳴る。


 グラウンドでサッカーをしていた生徒が、一斉に校舎に向かって走る。


「流音、教室に入ろう。これじゃ絵は描けない」


「そうだね」


 黒い雲に覆われた空に、稲光が走る。


 正門からザッザッと音がした。無数の黒い影が校舎に向かって歩いてくる。


 降りだした雨の中を、まるで軍隊のように一糸乱れず歩いている。


「何だ……あれ?」


 段々近付く黒い影。

 先頭を歩いているのは本橋さん。その後ろに列をなしているのは、男女合わせ二十名。


 どの顔を生気がなく土色をし無表情。ただ、眼光だけは鋭い。


「本橋さん……。おはよう」


「空野君、風見さんおはよう。新しい転校生よ」


「……こんなに沢山?」


「各学年、一年A組以外の各クラスに一名ずつ入るわ」


「みんな本橋さんの知り合いなの?」


「そうよ。みんな校長室に行くわよ」


 二十名の生徒は無言のまま列を成し校舎の中に入る。


「澄斗……。不気味だと思わない? あたし……不吉な予感がする」


 雨は激しい雷雨となり、あたしにはこれから起こる不吉な前兆に思えた。

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