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「俺は霊感もないし、霊の存在とか、悪霊とか信じない」


『俺は悪霊ではない』


「『俺は悪霊ではない』って唐沢先輩が言ってるわ。澄斗、唐沢先輩を中傷するならもうやめる」


「待てよ、まだ話は終わってない。あんたはこの学校の女子を殺し、絵画に魂を封じ込めたという噂が蔓延してる。それは事実なのか?」


『誰からそれを聞いた』


「誰からそんなことを……。もしかして本橋さん?本橋さんは唐沢先輩が見えるのよ。彼女の言うことなんて信じないで。唐沢先輩は女子生徒をモデルに人物画を描いただけ。彼女達が不慮の死を遂げ、唐沢先輩の書いた人物画に偶然魂が入った。それは唐沢先輩のせいじゃない」


 唐沢先輩は黙っている。

 澄斗はあたしの言葉を制した。


「偶然?九人の女子を死においやり偶然だと言うのか?流音、いい加減なことを言うな。俺は幽霊に真実を聞いているんだ」


 澄斗が怒鳴ったと同時に、美術室のドアが開いた。


 そこには柿園先生と伊住君が立っていた。


「あなたたち、そこで何をしているの!」


「……すみません。キャンバスを取りに……」


 あたしは咄嗟に嘘をつく。


「キャンバス?早朝に美術部の自主活動は禁じたはずよ」


「すみません」


 伊住君は壁に視線を向け、目を見開いた。


「柿園先生、絵画が消えてる……」


「本当だわ。まさか、あなた達が?」


「違います。あたし達が来た時にはもう……無くなっていました」


 動揺するあたしに、澄斗が視線を向けた。澄斗は右手でキャンバスを掴む。


「流音、校庭で描こう」


「……うん」


 唐沢先輩に視線を向け、あたしは目で『また来るからね』と伝える。


 唐沢先輩は優しく微笑んだ。

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