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「なぁ、流音ってば」


「澄斗、聞こえてるってば。唐沢先輩、どうしても澄斗が先輩と話をしたいって言うの……。実は昨日絵画が箱から飛び出して、あたしの部屋の壁に張り付いたのを見られてしまったの」


『成る程、だから俺のことも話してしまったのか』


「はい。澄斗、紹介するね。澄斗の目の前に唐沢先輩が立っているわ」


「まじかよ」


 澄斗は一瞬怯み、見えない相手を探すように両手を前に出しもぞもぞする。


『気持ち悪いな。勝手に俺に触れるな』


 澄斗には触っている感覚はないが、澄斗の手は唐沢先輩の胸に触れている。


「澄斗、唐沢先輩の胸触ってる。唐沢先輩が『勝手に触るな』って」


「うわっ、まじかよ。男の胸に触るなんて、俺はその気はない。勘違いすんなよ。それで、幽霊が本当に……そこにいるのか? やっぱ信じらんねぇよ」


『しょうがないな。今からカーテンを閉める。よく見てろ』


「唐沢先輩がカーテンを閉めるって」


 唐沢先輩が左手の人差し指を左に動かすと、あたし達の目の前で、美術室の遮光カーテンが音を鳴らし勢いよく閉まった。


 澄斗は目をぱちくりさせた。


「流音、お前いつからマジック出来るようになったんだ? すげぇ」


『マジックだと?』

「マジックじゃないよ」


 唐沢先輩と声が重なり、思わず顔を見合せクスリと笑う。


『お前を吹き飛ばす』


「唐沢先輩、乱暴なことは……」


『軽く飛ばすだけだ』


「流音、乱暴なことってなんだよ」


 唐沢先輩は両手を前に突きだし、瞼を閉じた。


 次の瞬間、澄斗の体は後方に吹き飛び、美術室のドアに激突し、床に転がる。


「いてて……。何すんだよ!」


『お前が信じないからだ』


「『お前が信じないからだ』って」


「……っ、本当にいるんだな。俺の声は聞こえるんだな」


『そんなにギャアギャア喚くな。聞こえてるよ』


「澄斗、聞こえてるから普通に話して。誰かに聞かれては困るから」


「ちぇっ」


 澄斗は立ち上がり、パンパンッとズボンを叩く。


 美術室の壁は絵画の掛かっていた場所だけ、白く浮き上がって見えた。



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