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「あたしは正常です」


「どこがだよ。全然正常じゃないよ。誰と話してんだよ」


 澄斗は段ボール箱を開け、中を見てギョッとし、慌てて箱を閉めた。


「お前、美術室の絵画を盗んだのか!?」


「盗んでないよ。柿園先生と伊住君が処分するって話していたから……」


「だからって、無断で持ち出すなんて盗んだも同然だろ。先生にバレる前に返そう」


「絵画を描いた人の許可はもらってるから大丈夫だよ。著作権も所有権もその人にある」


「は? 意味わかんねぇ。この絵画には、不吉な噂があるんだよ」


『不吉って何よ。失礼しちゃうわね』


 段ボール箱がバンッと開き、澄斗の体は弾き飛ぶ。絵画が箱から飛びだし、ふわりと宙に浮いた。


「うわわ、わぁー!」


 目の前で起こった怪奇現象に、澄斗は叫び声をあげた。


 絵画はあたしの部屋の壁に、ペタペタと勝手に貼り付いていく。


「そこはやめてよ。ベッドの横はやだってば。ベッドを囲うのだけはやめて」


『九人いるのよ、こんなに狭い部屋なんだから、文句言わないでよ。こっちは来たくないのに、わざわざここに来てあげたんだからね』


「もう、居候なんだから少しは遠慮しなさいよ」


 澄斗は眉をしかめ、あたしを見ている。


「流音……、今絵画の口が動いた気がしたけど……」


「動いたわよ。口を閉じてればみんな美人なのに、口を開くと本当に最悪なんだから」


『それはお互い様よ。優しいジュナ様が恋しくてたまらないわ。早く美術室に戻りたい』


「流音、口を開くって。お前、絵画と話をしてるのか!?」



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