123

「あたしは正常です」


「どこがだよ。全然正常じゃないよ。誰と話してんだよ」


 澄斗は段ボール箱を開け、中を見てギョッとし、慌てて箱を閉めた。


「お前、美術室の絵画を盗んだのか!?」


「盗んでないよ。柿園先生と伊住君が処分するって話していたから……」


「だからって、無断で持ち出すなんて盗んだも同然だろ。先生にバレる前に返そう」


「絵画を描いた人の許可はもらってるから大丈夫だよ。著作権も所有権もその人にある」


「は? 意味わかんねぇ。この絵画には、不吉な噂があるんだよ」


『不吉って何よ。失礼しちゃうわね』


 段ボール箱がバンッと開き、澄斗の体は弾き飛ぶ。絵画が箱から飛びだし、ふわりと宙に浮いた。


「うわわ、わぁー!」


 目の前で起こった怪奇現象に、澄斗は叫び声をあげた。


 絵画はあたしの部屋の壁に、ペタペタと勝手に貼り付いていく。


「そこはやめてよ。ベッドの横はやだってば。ベッドを囲うのだけはやめて」


『九人いるのよ、こんなに狭い部屋なんだから、文句言わないでよ。こっちは来たくないのに、わざわざここに来てあげたんだからね』


「もう、居候なんだから少しは遠慮しなさいよ」


 澄斗は眉をしかめ、あたしを見ている。


「流音……、今絵画の口が動いた気がしたけど……」


「動いたわよ。口を閉じてればみんな美人なのに、口を開くと本当に最悪なんだから」


『それはお互い様よ。優しいジュナ様が恋しくてたまらないわ。早く美術室に戻りたい』


「流音、口を開くって。お前、絵画と話をしてるのか!?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る