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「何を……するき」


「その絵画を燃やすのさ。この学園に蔓延る悪霊を根絶するためにね」


 黒谷君はライターの炎を近付ける。


『きゃあー』


 絵画の美少女達が一斉に悲鳴を上げた。


「……そんなことさせないわ!」


 あたしは絵画を入れた、段ボール箱の前に立ちはだかる。


「退きなよ、風見さんも怪我するよ」


「ここで火を放てば、美術室も燃えてしまうわ。火災報知器もすぐに作動し、先生も生徒もパニックになる。あなたは放火犯になるのよ」


 黒谷君はニヤリと口角を引き上げた。


「放火犯か……。それは困ったな。犯罪者にはなりたくない」


 黒谷君はライターをポンポンと空中に投げ、掌で受け止める。


 数回それを繰り返し、もう一度ライターを宙に放った時、ライターは空中で静止した。


 黒谷君は目を見開き、空中に浮かぶライターを見つめた。


「な、なんだよ」


 あたしにはちゃんと見えている。唐沢先輩がライターを掴んでいるんだ……。


「君がしているのか」


「あたしは何もしてないよ」


 ライターは空中で、カチッと音を鳴らし青白い炎を灯した。


 自分の頭上で燃えている炎を見て、黒谷君の顔が歪んだ。


「……っ、面白いものを見せてもらったよ」


 黒谷君は空中に浮かぶライターをジャンプして奪い取り、美術室を飛び出した。


「唐沢先輩……。こんなことして大丈夫かな。黒谷君は悪霊だと思ってる」


『悪霊か、致し方ない。流音、この絵画を預かってくれ。彼女達を巻き込むわけにはいかない』

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