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「わかってます。とにかく急いで外しましょう」
『わかった』
唐沢先輩が絵画に優しく触れると、絵画は意図も簡単に壁から外れた。
『ジュナ様』
絵画の美少女は、不安げに涙ぐむ。
『晶子心配しないで。流音は信頼出来る。君たちを乱暴に扱ったりはしない』
『本当かしら? 人間なんて信用出来ないわ。それにこの子、落ち着きもないし、品もないし、女らしさの欠片もない』
……っ、女らしくなくて悪かったわね。
美術室の隅に畳まれていた段ボール箱を組み立て、唐沢先輩とあたしは絵画を1枚ずつ丁寧におさめていく。
唐沢先輩は、まるで女性を抱き上げ、ベッドの中に沈めるように、丁寧に箱の中に入れた。
――カシャカシャ
ドアの外で小さな音がした。シャッターを切る音だ。
『誰だ!』
「誰!」
唐沢先輩とあたしの声が重なる。振り向くとそこにはカメラを構えた黒谷君が立っていた。
「黒谷君……どうして」
「伊住の行動で、何かが起こりそうな気がしてスタンバってた。伊住や柿園先生が外せなかった絵画を、風見さんは簡単に取り外せるんだね」
「……それは」
「何かコツでもあるのかな? でも俺には風見さんが触れていないのに、絵画がふわふわ宙に浮いたように見えたけど」
黒谷君はカメラを構えたまま、不敵な笑みを浮かべた。
「誰と話していたの? とても一人言とは思えなかったな。その絵画どうするの? 風見さんが処分するなら手伝うよ」
「……っ」
黒谷君はポケットからライターを取り出し、カチカチと鳴らした。
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