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「……千秋」


 急に空が黒い雲に覆われ、どんよりする。ポツポツ降り始めた雨は、次第に激しさを向け地面を叩きつける。


 校庭の枯れた桜の木の根元から、何かが蠢いている。


 目を凝らして見ると、黒い蛇が根元から次々と這い出している。


 その蛇の群れは……

 校舎の基礎部分の通風口から入り、床下へと消えて行く。


 その不気味な光景に気付く者は誰もいない。


「どうした? 体調が悪いのか?」


「……平沼先生」


 保健室に入って来たのは、養護教諭、平沼正ひらぬまただし。新しく赴任して来た保健室の先生だ。


「平沼先生、あれを見て!」


 あたしは校庭を指差す。


「校庭がどうかしたのか?」


 平沼先生が窓の外を見て、首を傾げた。


「何も変わったことはないけど、何かあったのか?」


「そんなはずは……。さっきまで枯れた桜の木の根元で、黒い蛇が無数に蠢いていたの!」


「黒い蛇? どこにもいないよ? 水溜まりに落ちた木の枝が揺れていたのだろう」


「木の枝……」


 そんな……はずはない。

 あたしはこの目で確かに見た。


 無数に蠢いている蛇が、校舎の床下へと入って行くところを。


「君は少し疲れているのかな? 夜更かしし過ぎだよ」


 平沼先生があたしの額に触れ、掌で熱を計る。


 その仕草に、思わずトクンと鼓動が跳ねた。

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