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 黒谷君が教室に入り、自分の席につく。


「風見さん昨夜は驚いたわ。急に寝ちゃうんだから」


「昨夜?」


 伊住君が話にとびつく。


「流音、昨日の夜、本橋さんと一緒だったの?」


 千秋があたしに視線を向けた。


「本橋さんと同じマンションなんだ」


「同じマンション?」


 千秋や小春の興味津々の眼差しに、澄斗が重い口を開く。


「俺んちで、ちょっとな」


「空野の家かよ。両手に花か。羨ましいな」


 羨ましがる伊住君を嘲笑うように、黒谷君が鼻で笑う。


 顔を隠すように深く被ったフード。そこから覗く瞳は……不気味な光を放つ。


 背筋がゾクッとするほど怖い。


 まさか……

 黒谷君が本橋さんを操る新種のヴァンパイア……!?


「三人が同じマンションだなんて奇遇だね。家を行き来するくらいもう親しいんだ」


「本橋さんのご両親忙しいみたいだから」


 そういえば……


 本橋さんのご両親を、マンション内で一度も見たことがない。


 本橋さんが訪ねてくることがあっても、私や澄斗が本橋さん宅を訪ねたことはない。


「千秋と小春もたまには部活に参加してよ」


「流音が仮入部でいいっていうから協力したんだよ。美術室に行っても、美男子イケメン幽霊には逢えないし、ジーッと座って絵画を描くのもつまんないし。あたしと小春は本当は帰宅部でいいんだよね」


 美男子幽霊か……。

 唐沢先輩が見えるのは、あたしと本橋さんだけ。

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