【11】邪悪と蛇開

流音side

96

 唐沢先輩の瞳……

 なんて綺麗なんだろう。


 不安な気持ちや恐怖が、浄化されるようだ。


 思わず見とれていると、美術室のドアが開いた。


 担任でもあり、美術部顧問でもある柿園先生だった。


「風見さん早いわね。一人で壁に背を凭れ何をしているの?」


「えっと……」


 そっか、柿園先生には唐沢先輩が見えないんだ。


「今から絵画を描こうと……」


「今から? もうすぐ始業のチャイムが鳴るわよ。朝は誰も来ないし、神川さんのこともあるし一人でここに来るのはもうよしなさい」


「……でも」


「美術部の活動なら、放課後にしなさい」


「朝はダメですか?」


「美術部員に何かあれば、顧問である私の責任になるの。やっと同好会から部に戻れたのに、そうなれば同好会に逆戻りどころが廃部になることもありえるわ。そうでなくても幽霊部員ばかりなんだから」


「ぷっ……。唐沢先輩のことだ」


『煩い、幽霊部員は二年A組の唐沢だ。俺は正真正銘の幽霊だよ』


「ププッ……。本物の唐沢君がいたんだ」


「風見さん失礼ね。何笑ってるの? 私は真剣に話してるの。ここに唐沢君なんていないでしょう。大体二年の唐沢君は部活に出たことなんて一度もないわ」


「すみません。何でもありません。柿園先生に迷惑は掛けません。朝も美術室に来ていいでしょう」


「ダメよ。あまり変なことを言うなら、美術室を施錠します」


「……柿園先生」


 施錠なんて……。

 唐沢先輩を牢獄に監禁するみたいで嫌だ……。

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